激闘! 暖隆争奪戦!

◇2018/2/13(火) 曇り◇




 冬北高校は今日も平和。平和ついでに極寒だ。いや、この寒さは平和というのだろうか? 震えながら、僕は部室に辿り着く。


「こんちはー。あ、日下部さん」


 部室のこたつには、新入部員・日下部ころなさんがにこにこぬくぬくしていた。

 そして挨拶を返してくれる。


「あーくん先輩……こんにちは……」


 僕は荷物を置き、よっこらせとこたつに入り、日下部さんと向き合い、とりあえず指摘する。


「今僕のことあーくん先輩って呼んだ?」

「うん……」

「確かに僕は暖隆あたたかという名前で、あーくんというあだ名をつけられたこともあるけど。でもほら、そういうのってもっと親しくなってからの方が……」


 日下部さんは、がーんという顔をした。目に涙を溜めて粛々と帰り支度を始める。僕は慌てて「別に親しくなりたくないとかそういうわけじゃなくって! いいよあーくん先輩で! どうも僕あーくんです! よろしくねころなちゃん!」と呼び止めた。

 ころなちゃんは心底ほっとした顔になり、こたつに入りなおす。

 そして、にっこり優しい笑顔。


 ……疲れる……。


「ええと……こ、ころなちゃん。僕は滅多なことでは怒ったり拒絶したりしないと思うから安心してくれていいよ」

「ごめんなさい……」

「え?」

「私……勘違いとか……多くて……」

「ああ、いいよ別に。大丈夫。マイペースでいこう」


 僕の言葉を聞くと、ころなちゃんは少し驚いたような顔をしてから、にこにこにこにこした。


 あ、この笑顔は癒されるな、と思っていたその時だった。

 部室の扉がバンと勢いよく開く。


 姿を現したのは、もちろん、陽奈ひな先輩だ。


「たのもー!」

「先輩。こんにちは」「こんにちは……」


 先輩は、なぜかドスドスと小柄なりに精一杯威圧するような足音を立て、がに股で歩き、荷物を置いてこたつに入る。

 それからバッグから何かを取り出し、ガシャンとこたつ机の上に置いた。

 何か……というか、オセロ盤だった。


「先輩、これは?」

「オセロだけど?」

「今日はオセロの日ですか。いいですよ。やりましょう」

「暖隆君は黙ってて!」

「えぇ……?」


「ころなちゃん」

 陽奈先輩は、ころなちゃんの方に向き直る。

「キミは暖隆君のことが好きと言ったね。でもだからといって、恋人同士になって暖隆君を独り占めしたら、こたつ部における独占禁止法に違反します。ボクの心も痛むので傷害罪も適用されます。もしそうなったら、裁判ののち、部室のみかんを食べちゃダメの刑に処されるでしょう。キミは暖隆君の彼女になることを辞退するべきです」


 僕は両手で顔を覆った。だめだ、先週の誤解がまだ続いてる(※陽奈先輩はころなちゃんが僕のことを好きなのだと勘違いしている)。でも正直、荒ぶる陽奈先輩を見ているのは楽しい。


「どうするのかな? 辞退するのかい? しないのかい?」

「よくわかんない……けど……」


 ころなちゃんは、にっこりと笑った。


「オセロ、やりたい……」

「なるほど。ボクはキミが辞退しない方を選んだ場合、実力行使、つまりオセロ勝負の挑戦状を叩きつけるつもりでいた。つまり、ころなちゃん。オセロをやりたいということは、暖隆君争奪戦をしたいということであり――――暖隆君の彼女の座を譲らないということなんだね?」


 絶対違う……。ころなちゃんは純粋にオセロやりたいだけだ……。


「いいだろう。ならばボクは全霊を以て暖隆君を取り戻すのみ! 暖隆君は、ボクの暖隆君なんだからっ!」


 先輩は黒。ころなちゃんは白。なんかよくわかんないけど僕の所有権(?)を巡ったオセロバトルが始まった!


 終わった!


 黒0個、白64個!


 ころなちゃんの完勝である!


「ま……まだまだっ! 三番勝負だから! 次は将棋で勝負だよ、ころなちゃん!」


 先輩は先手。ころなちゃんは後手。将棋バトルが始まった!


 終わった!


 素人目に見ても先輩の玉が無様に逃げまどってた! ころなちゃん完勝!


「確か五番勝負だったよね! 次は囲碁! 囲碁だっ!」


 囲碁バトルが始まった! 終わった! なんかよくわかんないけど盤面が真っ白! ころなちゃん完勝!


「チェス! チェスでどうだ!」


 始まった! 終わった! なんか速攻でころなちゃん完勝!


「ジェンガなら!」


 始まった! 終わった! 不動のバランス感覚でころなちゃん完勝!


「おい、遊戯王デュエルしろよ!」


 始まった! お願い死なないで陽奈! 次回、陽奈死す!


「ポッキーゲーム!」


 始まって終わった! 頬を染めつつもにこにこしながらころなちゃん完勝!


「神経衰弱!」


 ころなちゃん完勝!


「腕相撲!」


 ころなちゃん完勝!


「指相撲!」「古今東西!」「四文字限定しりとり!」「ツイスターゲーム!」「ルービックキューブ完成させるの競争するやつ!」「あの木にとまった鳥が飛び立つまで何秒か当てるやつ!」「どのみかんに種が入ってるか当てるやつ!」


 ころなちゃん完勝! ころなちゃん完勝! ころなちゃん完勝! ころなちゃん完勝! ころなちゃん完勝! ころなちゃん完勝! ころなちゃん完勝!


_人人人人 人人人人_

> 👑WINNER👑  <

>  日下部ころな  <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…………」


 先輩が肩で息をしながら、疲労困憊でこたつに突っ伏している。

 ころなちゃんはというと、さすがにやりすぎたという自覚はあるのか、おろおろとしていた。


 先輩が「ころなちゃん……」と疲れ切った声を発すると、ころなちゃんはびくついたが、恐る恐るといった様子で耳を傾ける。


「ころなちゃん、ボクはキミを……」

「……?」

「キミをボクの好敵手ライバルだと、認めよう……」

「いやライバル関係というには先輩ボッコボコにされすぎてましたよねあ痛っ! 痛い痛いです脛蹴らないで痛い痛いです痛い」


「ら……らいばる……!」

 ころなちゃんは少し目を輝かせた。あっ、嬉しそう……なぜだ……。


「今回はボクが惜しくも負けてしまったけれど……次はそうはいかない。いずれ暖隆君のことはボクが取り戻してみせる。それまで、誰にもやられるんじゃあないよ?」


 先輩はなんか良い感じのセリフを言った後に歯をキラリと光らせて笑った。なんだかんだで、新入部員とゲーム三昧で楽しかったのかもしれない。

 ころなちゃんも、にこにこしながら「うん……」とうなずいた。


 そして僕は、先輩へ告げた。


「日下部さんが僕のことを好きというのは単なる誤解でして」


 僕が説明すると、ほどなくして陽奈先輩は紅潮した顔を両手で覆った。やっぱりこういう先輩を見るのは楽しいな、と僕は思った。

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