モンハンやりてえ
◇2018/1/31(水) 曇りのち雪◇
「モンハンやりたい」
こたつ部の部室。僕と陽奈先輩はいつものようにこたつに入ってぬくぬくとしていたのだけど、今日の先輩はやけに元気がなかった。弁当にハンバーグが入ってなかったのかなとか思って納得することにして(※ハンバーグは先輩の好きな食べ物)、僕は先輩を放置して伊坂幸太郎の小説『ラッシュライフ』を読んでいたんだけど……
仕方なくその文庫本を閉じて訊く。
「ワールドですか」
「うん。ワールド」
モンスターハンター:ワールドは、アクションゲームの人気作・モンハンシリーズの最新作だ。ものすごく簡単に言うと、ハンターを操作してモンスターを狩るゲーム。大自然の中を駆け回り、大剣やらボウガンやらを使って、しばしば自分より遥かに大きなモンスターと戦い、倒し、剥ぎ取った素材で強力な装備を作り、更に強大なモンスターに挑戦していく、みたいなやつだ。
前作までは携帯ゲーム機を中心に展開していたのだけど、今作のプラットフォームはPS4。据置機の武器である美麗グラフィックをモンハンで味わえるようになった上、なんかいろいろ前作を改善・進化させているらしく、僕の友達は「すべてのモンハンを過去にした」なんてことを言っていた。凄そう。
「
「持ってないですね。PS4がうちにないんで」
「そっか……ボクもだよ……。ところで頼みごとがあるんだけど……」
先輩が伏していた顔をこちらに向ける。
「ボクにモンハンを」
「買いませんよ」
「ひどい」
「普通でしょ……」
「だってほしいんだもん! ボクの友達みんなモンハンの話ばっかりしてるんだもん! 友達がモンハンの話をしてる間ボクはなんとなく友達が笑うのに合わせて『あはは……』って笑うしかないんだもん! ボクだってモンハンでひと狩り行きたいのに! ネルギガンテ狩りたいのに! もうこうなったらCMの山田孝之みたいにモンハンワールドごっこしてやろうか! ディアブロスになりきって地面にもぐってやろうかあ! その時! 陽奈の背中に翼が生え、頭から角が伸びる! モンスター・ディアブロスに変身した陽奈が冬北高校を踏み潰した! そう、それは絶望の序章。同胞をハンターに狩られ続けたディアブロスの復讐譚が幕を開けるっ! きしゃーっ!」
ひとしきり喚いた後、はあ、はあと荒く息を吐いて、血走った目をする先輩。
僕はポットのお湯を急須にそそぎ、茶碗に緑茶をついだ。
そっと差し出す。
「落ち着いてください」
「うん」
猫舌の陽奈先輩は熱々の緑茶をちびちびと飲み、溜息をつく。
「モンハンやりたいなあ……」
「やりたいですね……」
ふたりしてぼんやりと呟き、なんとなく窓の外を見る。空からモンハンが降ってこないかなあ。そう思っていたら雪が降ってきた。やめてほしい。
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