ガチャの話をするとしよう

◇2017/12/19(火) 雪◇




 放課後になり、友達と別れて部室棟へ向かう。今日も雪が降っている。雪かきをする用務員さんに挨拶されたので挨拶を返しながら、一階の最奥へと足を踏み入れる。

 こたつ部の部室では、既に陽奈ひな先輩がこたつでぬくぬくとしていた。


「こんちは」

「やー」


 先輩はぞんざいに手を振りつつ、スマホから目を離さない。横向きにして、何かゲームをやっているようだ。


 反対側のこたつに入りながら訊く。「何してるんです?」


「FGO」

「あー。Fateのソシャゲですか」

「うん。今、クリスマスイベントのガチャやっててさ」

「回してるんですか? なんかいいの出ました?」


 先輩は、ほうれんそうを食べた時みたいな顔をした(先輩の嫌いな食べ物はほうれんそうだ)。


「礼装は……出た……」

「あんまりいいのは出なかったんですね……」

暖隆あたたか君。きみもFGO始めよう。ね。ね。始めよう。そして課金ガチャ引こう」

「そういうお金の無駄遣いはしないって決めてるんで……」

「始めるなら今だよ。ひょっとしたらいきなり強いサーヴァント引けるかもしれないよ。ボクの友達もみんなやってるし。やれば最高の気分になれるよ。ダイエットにもなるよ」


 落ち窪んだような目で不気味に笑いながら甘い言葉を並べる先輩。僕は知っている。これは巧妙な罠なのだ。自分と同じガチャ中毒に引きずり込もうとしているのだ。小学校で保健の時間に習ったからわかる。


「それにね暖隆君、今始めればボクがフレンドになってあげるよ」

「ダメゼッタイ。僕はやる気ないんで」

「フレンド機能とは、簡単に言うと、バトル中に助っ人としてボクの持ってるサーヴァントを呼べるようになる機能さ。あ、サーヴァントっていうのは、まあ今はキャラクターのことっていう理解でいいんだけど」

「聞いてます?」

「ボクは最強クラスのサーヴァントを何騎も持ってるから重宝すると思うよ。ほら、このマーリンなんかは定番だね。うちのはスキルマしてるし凸プリコス持たせてるし宝具レベルも2だから超強いよ。夢幻のカリスマとガーデンオブアヴァロンでNP溜めて他鯖への英雄作成からのバスター宝具が決まればだいたい相手は死ぬし」

「専門用語だらけでわからないんですけど」

「いいからいいから。とりあえず始めてみようよ、ね、ね。それにこのゲームはストーリーが最大の売りだから。ストーリー楽しめればガチャ引く必要ないからさ。六章とか七章とか、熱いし感動するよ。人間賛歌だよ。マシュちゃんかわいいよ」

「うあーはいはいわかりました、わかったから顔を近づけないでください、近いです近い」


 興奮気味に身を乗り出していた先輩がこたつに座り直す。先輩は美人なんだから、ドキッとするようなことしないでほしい。仕方なくスマホを取り出してFGOをインストールする僕。

 先輩は満足げな笑顔をした。


「かかったね」

「やはり罠か」

「ふふふ……暖隆君、きみもストーリーを存分に楽しみ、登場したサーヴァントを好きになるがいい。そしてガチャでそのサーヴァントを引きたくてたまらなくなるがいい……」

「騙したな僕を」

「ふふふふ……ふふはは……あーっはっはっは!!!!」


 その後、僕は最初の無料ガチャでエレシュキガル(すごくレアなキャラで先輩が欲しいのに手に入らなかったやつらしい)を引いた。先輩はその日一日、泣きながら僕の脚をこたつの下で蹴り続けたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る