第4話 いつか、また君と〈高校生〉

 時は流れ、俺たちは高校生になった。

 サッカーを始めて早10年、今も変わらず熱中したままだ。

 ケンタロウはプロチーム『清水インパルス』のユースチームへ、俺はサッカーの名門校へと進んだ。高校では、クラブチームと高校サッカーのチームが戦うことはあまりない。だけど、俺たち二人は未だに連絡を取り合っていた。いつか、また一緒にサッカーが出来る日を夢見て。


「もしもしユウスケか?」

「もしもし、どうしたケンタロウ」

「それがな、大ニュースだ!」

「なんだよ、とか言ってどうせ大したニュースじゃないんだろ」

「いやいや、今日は本当の本当に大ニュースだって!」

「分かったよ、で、なんだ?」

「驚くなよ、俺、インパルスのトップチームからオファーがあったんだ!」

「え、っていうことは、プロ選手になれるってことか!? すげーぞやったな!」

 なんとついに、ケンタロウがプロ選手になる日が来たらしい。確かに昔から上手かったけど、それ程の選手になってしまうとは。驚きだ。

「それでな、今日はそれだけじゃない」

「なんだよまだ何かあるのか?」

「ああ、あくまで噂なんだけどよ。インパルスのフロントが最近話題不足だって嘆いてるらしいんだ。そこで、高校サッカー選手権の全国大会で優勝したチームの主力を一人獲ろうって話が出てるらしい」

「……だから、なんだ?」

「ばか、分かんないかよ。お前んとこが優勝したら、もしかしたらユウスケもインパルスから声が掛かるかもしれないだろ。そしたらまた俺たち一緒にサッカーができるだろ!」

 そんな、全国制覇なんて――そう口にしかけて、止めた。俺たちは、前にも無理なことをやってのけたじゃないか。だったら、俺たちにできないことなんかない。


「ああ、必ず待ってろよ!」


 そして、高校3年生の冬。俺たちは順当に県予選を勝ち進み、全国大会に駒を進めた。そしてなんと、またしても決勝戦まで勝ち上がってしまったのだった。


「ついにあと1勝だな、ユウスケ。絶対勝てよ」

「もちろん、今日はケンタロウも応援来てくれるんだろ?」

「もちろん行くよ、お前の勇姿を目に焼き付けるためにな」

「茶化すなよ。それじゃあまたあとでな」

 笑いながら電話を切ると、いつの間にか肩の力が抜けていた。さっきまでの緊張はどこかに消え去ったみたいだ。みるみると身体に力が湧いてくるのを感じた。



 ――試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。

「やった……勝ったぞ!!」

 試合は俺のゴールを含む2対1で、俺たちのチームが勝利した。

 割れんばかりの歓声、駆け寄ってくるチームメイト。俺には時が止まったかのように景色は揺れ、一滴の涙が頬をこぼれ落ちた。そのまま拳を高々と突き上げ、最高の瞬間に浸った。


 最後のロッカールーム。監督の話が終わり、仲間全員と言葉を交わした後、真っ先に伝えたかったアイツに連絡しようと、スマートフォンを開いた。

 しかし、画面を開いた瞬間全身の血が引き、頭が真っ白になった。

「なん、だって……?」

 そこには母親からのメールの文面が映し出されている。内容は、到底信じがたいものだった。


 ――ケンタロウが死んだ。


「どういうこと、だよ」

 何も考えられないまま、俺はロッカールームを飛び出した。


 嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ――心の中で何度も叫んだ。

 外で待っていた母親と合流し、すぐさま病院へと向かう。


 病室に着くと、ケンタロウが静かに眠っていた。

「なんで、だよ……」

「スタジアムに向かう途中、バイクで事故に遭って……」

「なんで、なんでっ! 俺、約束通り優勝したぞ! またお前と一緒にサッカーできるかもしんないんだぞ! なのに、なんで、なんでっ!」

 もう、涙で前もろくに見えていないし、何を言っているのかすらよく分からない。今はただ、叫ぶことしかできなかった。

「お前と、またサッカーしたかったよ……!!」

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