第3話 全国に行こう〈小学校〉
小学校に上がった俺たちは、地元の少年団に入団していた。その名も『中矢部JFC』。中矢部ジュニアフットボールクラブの略で、通称『
中Jはまだ出来たばかりのチームで、人数もそこまで多くはなかった。
そして、中Jでサッカーを練習すること6年――俺たちチームはそこそこ戦えるくらいにまで力をつけた。
「去年の大会惜しかったよなー。県ベスト8だっけ。結構良いとこまで行くんだけど、その後がなかなか大変だよな」
「新参者の俺たちが8強に入れば上出来だよ、普通」
「じゃあユウスケは今のままで満足なのか?」
「そんなわけないだろ。今年こそ優勝して、新参者の俺たちの名前を轟かせてやろうぜ」
相変わらず仲の良い俺たちは、目前に迫った最後の県大会のことで頭がいっぱいだった。
サッカーにのめり込んだおかげで体操教室は直に辞めてしまった。それほどまでに、俺たちはすぐに熱中した。
そんな小学校でのサッカーがもうすぐ終わってしまう。サッカーを始めてからもうすぐ7年が経つけれど、練習を欠かした日はない。雨の日も風の日も、一日たりとも休まずに必死で練習してきた。もちろん強制的にではなく、やりたいからやっているだけだ。そのおかげでなんとか県大会ではベスト8くらいまでは勝ち進めるようになった。だけど、その先の壁が高い。
県内には、いくつもクラブチームが存在してる。中にはセレクションを行って選手を集めているところもあるらしい。そういった所謂『強豪』が、俺たちの前に立ちはだかる。一日に何試合も行う小学生サッカーでは、そういったチームの選手層の厚さに対抗するのはなかなか大変だった。
何せこっちは、高々地域の少年団なのだ。そう代えの選手がたくさんいるわけではない。
だけど、だからといって簡単に諦めるような俺たちじゃなかった。選手層が薄いなら、その分一人一人がたくさん走ればいい。そうやってこれまでも戦ってきた。
今ではドリブルが得意なケンタロウはチームのエース、バランス型の俺は中盤でチームの要として、それぞれ活躍している。
中学からは別々のクラブチームに進むことが決まっているから、一緒にプレーできるのはあと少しだった。喧嘩をすることもあったけど、その度に絆が深まっていくのを感じていたし、もっと一緒にサッカーをしたいとお互いに強く思っていたと思う。
そして、もうすぐその最後の大会が始まる。小学生サッカー、最大の大会『全日本少年サッカー大会』、通称
この大会の県大会で優勝すれば、全国大会に出られる。つまり、だれよりも長く小学校のこのチームで、サッカーができるのだ。
その全国の切符を求めて、俺たちは毎日泥だらけになりながら、必死に努力に努力を重ねた。
「絶対優勝して全国行こうぜ」
「ああ、当たり前だ。ユウスケ足引っ張るなよ」
「うるせえ、お前こそな」
俺たちはふざけて笑い合いながら、勝利を誓い合った。
そして迎えた、大会当日――俺たち中Jは順調に勝ち進み、鬼門だったベスト8の壁も打ち破った。そしてついには、決勝の舞台にまで上り詰めた。
「いよいよ……だな」
「ああ、ついに俺たちの名前を轟かせる時が来たんだ。絶対に勝とう」
「行くぞっ、中Jファイッ」
「オーッ!!」
入場曲が鳴り響き、俺たちはピッチへと駆けだした。
試合は1点ビハインドのまま進み、迎えた終了5分前。ケンタロウの鮮やかな同点ゴールが決まり、試合は振り出しに戻る。そして試合終了間際、このまま延長戦かと思われたその時、俺のロングシュートが見事ゴールネットを揺らし逆転に成功。そのまま試合は終了し、中Jの優勝と共に全国大会行きが決まった。
その時のことは、興奮しすぎてよく覚えていない。ただ、みんなと揉みくちゃになって喜んだことだけは覚えている。きっと、サッカーをやって来て良かったと心から思ったはずだ。もちろん勝ったことも嬉しかったが、それよりも同じ目標に向かって戦って、喜びを分かち合える仲間が周りにいたことが最高に嬉しかった。
全国大会では大した成績は残せなかったけれど、ケンタロウと、チームメイトと最後まで一緒に戦えたことが、何よりも嬉しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます