エピローグ

第152話 明日へ!

 7月の金曜日、午後7時頃。

 現在地は飯農市、東吾野駅と吾野駅の間にある霧島駅の上空50メートル。

 俺は斜め下を見下ろす。


 学校が見える。

 あの頃はまだ新しかった校舎も所々くすんでいる。

 無理もない。

 もう10年以上経った。


 神の力を持った敵と戦った後の2年間も決して退屈な日々ではなかった。

 遊んで食べて戦って、でも2年後半からは結構勉強もしたな。

 勉強プラス知識の分け与えプラス知識の分け与えられ。


 結果何とか近場の国立の大学に合格。

 何とか4年で卒業してとある財団に入って今年で4年目。

 あの頃程ではないがそれなりに騒がしい日々を送っている。


 ふと見ると、学校内の前にエアストリームを停めていた場所に何かある。

 よく見ると同じくらいの大きさのバス型キャンピングカーだ。

 どうやら後輩たちもよろしくやっているらしい。


「佐貫君、こんな所で何をやっているですか」

 懐かしい声がした。


「お久しぶりです、三郷先輩」

「久しぶりだね、お兄ちゃん」

 彼女はそう言って笑う。


 三郷先輩は今この学校の高等部の教師をしている。

 専門は理科で防衛時は指揮所の担当。

 神聖騎士団が弱体化した後も他の勢力等による侵攻や潜入があるらしい。

 被害を受けたという話は聞かないからうまくやっているんだろう。


「何、黄昏れているですか」

 そう言った三郷先輩の左手薬指に光る指輪。

 昨年めでたくというか、やっと後台先輩と結婚したのだ。

 ちなみに後台先輩は一般の企業でサイバネ関係の研究をしているとの事。


「何となくここに来てみたくなったんだ。ちょっと昔を思い出して」

「明日の結婚式を前に逃げ出したくなったですか」


 そう、俺は明日で結婚式を迎える。

 この学校で、正確にはこの学校の移転前の校舎で出会った彼女と。


「逃げるというかもう一度思い返しにかな。ここが今の俺の原点だから」

「センチメンタルという奴ですね」

 そうかもしれない。


 間もなくあたりも暗くなり、あちこちの照明が点く時間になる。

 そうなるともうすぐ学校の始業時刻。

 後輩達の一日が始まる。

 きっとあの頃と同じような騒がしくて輝かしい一日が。


 俺はふと思いついたことを三郷先輩に聞いてみた。


「三郷先輩、今の後輩達、というか俺達の前も後の世代も、同じように世界を賭けて戦ったりしているのかな。戦う対象は違うとしても」


「当然じゃないですか」

 三郷先輩はそう返答して続ける。


「世界を賭けた戦いは大なり小なりいっぱいあるのです。それぞれ私達の知らない英雄がいて、皆で戦い続けて勝ち続けているのです。だから世界は今日も何とかなっているです。

 私達はもう、サポートする側になりつつあるですけれどね」


 俺もそう思う。

 あの古いバス型キャンパーを見ると確信できる。

 俺達のエアストリームは松戸邸へ返したけれど。

 今はどうなっているだろうか。


「さて、私はそろそろ学校へ戻るです。佐貫君はどうするですか」

「俺もそろそろ戻るよ。今日はあの面子全員うちに来る予定だし」


「ゴールインできなかった3人が花嫁をいじり倒さなければいいですけどね」

「この場合、いじられるのは俺だろきっと」


「それもそうなのです、昔からそうでしたね」

 三郷先輩はそう言って、笑って。

「学校に戻るです。それでは明日!」

 そう言って姿を消した。


 俺はもう一度学校の方を見る。

 停められているバス型キャンパーが夕日に輝き、かつての銀色のエアストリームの姿と重なる。


 思い出す。

 いつもバタバタしていて。

 時には世界を賭けて戦って。

 しょっちゅう逃げたくなった甘酸っぱく輝ける日々を。


 そして。

 その頃程派手でも初々しくもがむしゃらでもないけれど。

 きっと同じ位価値のある望んだこれからに向けて。

 俺はこの場を後に一歩踏み出した。

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ハイブリッド・ニート ~ 二度目の高校生活は吸血鬼で 於田縫紀 @otanuki

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