第151話 ちょい待て!それはないだろう!
そして不意に三郷先輩がにやりと笑う。
「重くなり過ぎたここの雰囲気を変える楽しい事実があるです。以前ちょっと気づいて用意していたです。佐貫君この紙を見て思った事を言うです」
三郷先輩は俺に2枚の紙を渡す。
内容は単なる戸籍の全部事項証明。
1枚は三郷先輩のだ。
名前はみどり。
両親の名も記してある
父親は三郷麻旺、母親は三郷朱里。
何か父親の名前に嫌な予感がする。
2枚目も三郷家の戸籍の全部事項証明。
本当はこっちが1枚目のようだ。
筆頭者は三郷朱里、配偶者が三郷麻旺。
そして三郷麻旺の父と母の欄の姓が佐貫だ。
ちなみに俺の親父と名乗っていた男の名は佐貫麻旺。
これは。
「もうわかるですよね。お兄ちゃん」
「えっ!」
三郷先輩と俺以外の視線が俺の方を向く。
「えっとつまり、俺の父親が再婚して三郷先輩の父親だと」
「つまり佐貫君は私のお兄ちゃんという訳なのです」
って言われてもな。
「でもどっちも本当の親というわけじゃないし、だいたいこの戸籍だって本当は偽造だろ。奴は東欧出身で400歳を超えてるぞ」
「でも日本のお役所で証明書を取るとこうなるのです。つまりは義理だけど立派に兄妹なのです。公的機関が証明してくれるのです。わかりましたかお兄ちゃん」
「つまりお姉ちゃんの兄だから私の兄でもあるのです……でしょうか」
「ん、出来のいい妹と出来の悪い兄の見本だね」
委員長が悲しい意見を言う。
「同意」
綾瀬も頷く。
「私も同感だわ。学年下に出来の悪い兄がいるとは先輩も不幸ね」
松戸がトドメを刺した。
何だか知らないがとりあえず重い空気は解消はされた。
でも。
何がどうなっているんだ!
あまりの展開に俺自身がついて行けてないぞ。
三郷先輩がニヤニヤ笑いながら説明を始めた。
「まあ種明かしするです。
麻旺君は妖怪や亜人種を不当な方法で利用しようとする勢力に対抗する財団で働いているです。佐貫君のような歴史の遺物の保護もするし私のいた研究所の襲撃や制圧や証拠隠滅も任務なのです。
だから佐貫君を養ったり私を保護したりするのもなりゆき上ありうる事なのです」
「俺を養うと言っても、それこそ子供の頃から年単位で放っておかれたぞ」
ちょっとだけ抗議をしてみる。
「麻旺君は飽きっぽくて忘れっぽくて惚れっぽいのです。うちの母親役が言っていたのです。一つ任務をこなすと前の任務は忘れるです。おまけに行く先々で恋をしては入籍して離婚してを繰り返しているのです。
私も数年会っていないので良く知らないけれどそういう事らしいのです」
と、言う事は……
「ん、つまり佐貫もそんな天性の浮気者の血を引いていると」
委員長が変な結論を出した。
思わず俺は抗議する。
「おいちょっと待て。奴は名目上は父親だが血縁じゃないぞ」
「血縁ではあるらしいのです。遺伝子上は兄弟らしいのです。麻旺君がずっと前に言っていたです」
色々明かされる新事実。
俺はもうお腹いっぱいだ。
勘弁してくれ。
「ん、つまり佐貫は兄に養ってもらっていて、かつ妹の後輩になっていて浮気者の血を引いている駄目人間って事でいいのか?」
「そうね、結論としてはそうなるわね。更に妹の妹に対して血を吸ったりベッドでキスして抱きしめたりした変態の称号もあげてもいいかも」
「あ、確かに私のファーストキスは佐貫にあげてしまったです。これって近親相姦一歩手前なのです。禁断の愛なのです!」
「変態と認定」
何か色々俺に対して酷いことになっている。
少なくともあの件は俺のせいじゃない。
松戸の企みで俺以外の合意の上での行動だった筈だ。
更に三郷先輩が悪ノリする。
「ねえお兄ちゃん。明日彼とディズニーシーでデートするんですので、おこづかい頂戴です!」
「あ、なら私もです!妹の妹で近親相姦被害者なのです。慰謝料なのですおこづかい要求するです!」
思わず委員長直伝チョップを出しそうになるが我慢。
そんなもの今出したら絶対謝罪と賠償を要求される。
よろしいならば
そう言える程おれは神経が太くない。
ならば三十六計……
えっ、異空間移動できない。
松戸がいかにも悪そうな笑みを浮かべる。
「こんな楽しい話のネタを逃がす訳ないじゃない」
三郷先輩がウィンクしてみせた。
「ちょっと空間閉鎖かけちゃったのです。ごめんねお兄ちゃん!」
俺にとって地獄のような時間は、こうして続く……
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