第150話 わたしがわたしになった日(2)
みらいは目をつぶって聞いている。
小さく震えるのを三郷先輩が軽く撫でる。
「みらいが生まれた時、はじめて私達の中に意識と目的が生まれたです。
それは、みらいに普通の人間としての幸せを与える事。
生まれた時点でみらいには私達みたいな欠損が無く、普通に生きていける事がわかっていたです。
だから私達は希望を持ったし目標を持ったのです。
そしてこの時はじめて私達も個としての意識が出来たです。
それまではそれぞれ思考の入れ物の存在は知ってはいたですが、意識とか情報とかは完全に混在してたですし共有していたですから。
私達はみらいを私達とは違う独立した存在として最初から育てるとともに、様々な計画を立てて準備をして時を待ったです。
計画決行はみらいの3歳の誕生日。
その日私達は警備体制に穴を開けるとともに外部の協力者に連絡を入れ、みらいを助ける手筈を整えたです。
残っている研究内容や研究成果等のデータは全部消去したです。
有形の物も無形の物も、みらい以外は全部。
研究員を爆殺したのは姉の誰かですがその爆弾を仕掛けたのは私です。
バージョン25までの生命維持を切ったのも私なのです。
みらいの他に動けるのは私だけなのですから。
研究所の主要施設の爆破が終わった後。
荷物用カートで移動して1人ずつ生命維持装置を手動で切っていったです。
皆ありがとうと言う言葉を残して消えていったです。
最後に私は高性能爆弾を抱えて施設基盤部付近に隠れたです。
みらいが脱出した時点で爆破して、全てを消去する計画だったです。
でも、爆弾は爆発しなかったです。
念の為に用意した予備も含めて爆発しなかったです。
そして私も助け出されてしまったです。
きっと姉達が私に内緒で計画を変更したのです。
生き残ってみらいを見守れと。
だから私はその後、みらいが入る筈の学校に1年先に入学したです。
そして今に至っているです」
話があまりに重かった。
流石の松戸も茶々を入れない。
沈黙があたりを支配する。
「それでは、私のせいで、私のせいでお姉ちゃん達は皆死んでしまったですか」
守谷の鳴き声交じりの問い。
でも三郷先輩は優しいがきっぱりとした口調で答える。
「そうじゃないのです。みらいが生まれるまでは、生きているとか死んでいるという感覚すら無かったのですから。
私が意識を持ってからみらいが生まれるまでにもバージョン18と20、22の意識が消えたです。でもそれが死だという感覚も無かったくらいなのです。
みらいが生まれて初めて、私達に目的が出来たのです。その目的のために始めて個の意識が出来たです。みらいの存在で初めて生きるということが出来たです。誰も後悔してないし感謝してるです。姉達の生をこの手で終わらせた私が保証するです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます