3-7
気がつくと、わたしはチャック・ジョエルの家の前に立っていた。
……わたしは誰だ? わたしはそうわたしに訊ねた。わたしは応えた。わたしは、ジャイラ・ケーウンだ、と。
わたしは、車を降りた時点からスタートしていた視聴覚録画の動画ファイルを自身のSNで再生させた。そこには、ただジョエルの家の扉がずっとアップで映っているだけだった。
……オーケイ、つまりわたしは、現実のわたしはずっと、この扉の前に立ち尽くしていたのだ。扉が開いて以降のことは、すべて……
わたしは扉を蹴破って中に入った。そこには男がひとり、口から泡を吹いて昏倒していた。顔を確認する。間違いない、レンドラーの知人一覧で見た、チャック・ジョエルだ。そして、室内を隈なく見回してみたが、他には誰もいなかった。誰も……
わたしは、自分の身に何が起こったのかを自分なりに考えてみた。
おそらく、わたしが扉の前まで来たところで、ジョエルが室内から思念放射をおこなったのだ。半径三メートル以下、観測不能の思念放射を。そこからわたしの意識はイメージの世界へと移行。その中で、ジョエルはわたしの精神を屈服させるために、別れた妻のイメージを使ってわたしを攻撃してきた。……まぁ、こんなところではないだろうか。
わたしはジョエルの頭髪を一掴みむしり取って、それを証拠品袋にしまった。そしてSNの通信で救急車を呼び、わたしは部屋の真ん中に置かれた肘掛け椅子に座った。
わたしはしばらくの間、ただぼんやりと、肘掛け椅子に座って玄関の扉を眺めていた。
マーリの部屋の扉に似ているな、とわたしは思った。
……わたしは毎晩、あの部屋の扉の前に立って、どんなことを考えていたっけ?
今は娘のことより、事件のことを考えるべきだ。とか、今は、放っておくべきなのだ。娘のためにもそれがいいに違いない。とか、確かそのようなことばかり思っていた。
わたしの中のエド・アケロウが、わたしに語りかけてくる。
“あなた、本当にそう思っているんですか?”
……本当に思っているかって? 馬鹿なことを聞かないでくれ。
そんなこと、思っているわけがないだろう。
わたしはずっと、娘と触れ合いたかった。顔を合わせ、話をしたいと思っていた。これが本心だ。でも、どうすればそれが上手くできるのかわからなった。だから嘘の理由ばかり並べて、自分で自分をごまかして、そうこうしているうちに、娘はあんなことに……わたしは馬鹿だった。本当に。どうしようもなく。
わたしは決意した。なんとしてでも、娘を、マーリを取り戻す。二人の間にかつて確かに存在していた絆を取り戻す。どうすればそれができるのか? 今は分からない。分からないが、その答えは必ず見つけ出す。母を殺され、妻は精神を害され、今度は娘? ふざけるな。冗談じゃない。わたしは、もう何も諦めない。誰に何を言われようが、知ったことか。どんな困難も、苦痛も、逆境も、わたしの行く手を阻むことはできない。わたしは大きく息を吸い、拳を握りしめ、そしてこう言った。
「――――これが、わたしの思考だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます