少女な僕と悪戯女神
霧鳴アイラ
第1話
「霧原さん、おはよう」
「うん、おはよう」
挨拶をしてくれたクラスメイトに返事をして。
ふう、と窓の外を見る。
視線の先には、満開の桜。
希望に満ちた表情の新入生と保護者達。
ひらひらと舞う桜はとてもきれいだ。
「さて……そろそろか」
そう、もうすぐだ。
もうすぐ、あの人がやってくる。
僕の希望。
僕の守護者。
僕の大切な、勇者様。
「早く会いたいなぁ、かぐらさん」
その日、僕らは二年生になった。
新たに始まった高校生活にようやく慣れ始めたある日。
その日はほんの少しだけ、夜更かしをした。
友人とのゲームに熱中し、気が付けば夜中の3時である。
「んー、やばいなぁ。起きられるか、これ」
まあ目覚ましを7つほど設定しておけばいいか。
そんな軽い感じで目覚ましをセットして。
目を覚ましたら全てが変わってしまっていた。
僕の、すべてが。
胸元に手をやって。
「やわらかい……」
下に手をやって。
「ない……」
ああ、なぜだ。
始まりは突然に、なんて言うけれど。
――これは、あまりにも突然すぎやしないかね、神様よ。
窓に張り付いた桜の花びら。それがふわりと剥がれ落ちるのを見ながら、僕は。
ふ、と息をつき、ぽつりと呟く。
「な、なんじゃこりゃあ……」
目の前を覆う髪をかき分ける。ああ、これで鏡が見られる。
映るのは小柄な身体、微かに膨らんだ胸部。長い黒髪から目が覗くその様は、さながら貞子といったところか。試しに手を振ってみると、鏡の中のその子も手を振り返す。わ、手ちっちゃい。
さて、もうそろそろいいだろう。ここで何をしても現実は変わらないのだから。
そう、今日この日。目が覚めると僕は女の子になっていた。
少女な僕と悪戯女神 霧鳴アイラ @aira_kirinari
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