第5話 グラハム数
みーんみんみんみんみん
みーーんみんみんみん
みーーーんみんみんみんみん
じじじじじ
ちゅんちゅん
・・・・
静寂
土の中に生を受けて、もう何年になるだろう。あーーー、暇だ。暇すぎる。俺は土から出たら羽化して数日の命を全うするか、生まれることもなく食われるか、どちらかしかないだろう。
何のために生まれたのか?そんな疑問を持ってしまったら悲劇だ。俺たち昆虫なんでものは。
みーーんみん じじ
かさかさ チュンチュンチュン
・・・
静寂
賑やかなのは、樹海でも外側。このだだっ広い樹海の中のほうで生きようなんて動物達は哀れだ。差し込まない光。淀んだ地面。異様な湿気。なんでおれがこんなところにいるのか。産んだ親を恨むしかあるまい。親はもうとっくに亡骸になり、この森の栄養になっただろうけどね。
「それで、先生。なんだってこんなところに?テトラトリ火山といえば、麓の異常に広い密林で有名、迷えば帰ってこれないとか。俺、正直怖いですよ」
「な~にを言っとる。高々有限の広さじゃないか。ほれ!とっとと歩けい!」
そりゃーこの森の入口なら鳥も鳴くさ。火山の頂上までいったらそりゃ見晴らしもいいだろう。こんな中途半端なところに生まれたんじゃあ、なんの楽しみもないね。はーー、土から出る意味もわかんなくなってきたな。
「先生、もう奥に来すぎですよ」
「大丈夫だと言っとろーが!ワシはしっかり目印を付けておる!ほれ!この縄を見い!」
「知ってますよ、先生が縄を木にくくってたのは。それで、何本縄を使ったんです?」
「ふむ、64本を結び終えてるな」
「これ以上行ってもなんにもありませんよ。木が高くて殆ど暗やみじゃないですか」
「なあに、ワシも若い頃は、大冒険家だったんじゃい!」
なんだか久し振りに動物の声を聞いたぜ。この静寂を破るのは、、人間?
「もう俺無理です!ここらへんはとくに不気味だ。先生がなんと言おうと帰りますよ」
「ったく。新種の生物でも発見できるかと思ったのに。ほれ!そこの土でも持って帰って後で調べるぞ!」
「はいはい」
え、えーーー!俺、持ってかれるーー!!??拉致!?
「先生、それで、いまどこまで戻ってきたんです?」
「あと残ってる縄は27本じゃよ!ほれ!そこに少し小高いところがあるじゃろ!登ってみぃ」
「もう疲れましたよ」
「若いもんが何を言ってるか!」
「はいはい」
「あ、テトラトリ火山がよく見える」
「どうだ!ここの眺めは最高だろうが!ワシも若い頃はよくここに来たもんじゃ。いくら深い森でもここだけは絶対に迷わん。ちょっと奥まで行ったのは、まあ気まぐれじゃ」
あ、あらーー、そんな気まぐれで俺捕まったのーー!
「勘弁してくださいよ・・・」
「はっはっは、さあ、帰ってはやく土を顕微鏡で見るぞ!楽しみだなぁ!?」
明るっ!!なにここっ!??
「先生、セミの幼虫みたいなのがいましたよ」
「ほうセミとな?」
「なんだか不思議な模様ですね?」
「うーむ、シマウマのような、、」
「シマウマは無いでしょう、先生。どちらかというとヒョウ柄ですよ」
「お前の目はどうなっとんじゃい?白黒だったらなんでもいいのか?牛とパンダとシャチとシマウマの区別も付かんのだろ!」
「いやいや、何を仰るんですか、もう」
「それにしても不思議な模様をしておるの」
「もしかして珍しいセミかも?」
「ふーむ、テトラトリ火山まで行って何も得られませんでしたでは済まないからの、よし、こいつを研究室の展示に使おう!ついでに学会でも発表しちゃうか!?」
「また適当なんだから」
な、なんだってーー、俺、見世物にされるのーー?絶対に見つかることない一生だったはずが、人気者にーー!?
そして、そのセミの幼虫は、セミマニア垂涎の的となったのだった。
定義:グラハム数
G(n)=3→3→nとしたときの、G^64(4)
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