第4話 𥝱

 ヨタ、、ヨタ、、

 おじいさんは一人で歩いていたが、徐々に足は動かなくなってきていた。

「ああ、もう充分に生きた。もう思い残すことはない」

 おじいさんは工場の前で立ち止まった。中では歓声があがっている。何かが出来上がったらしい。

「人間たちは、欲深く物を作り続ける。それが何になろう。結局豊かさとは物ではないと気付くころには、もう取り返しがつかないのに」


 おじいさんはやかましい工場の前で、遂に歩けなくなった。

「私にはもう何も聞こえん。何も見えん。世界はなんと静かになったことだろう・・・」

 そして、おじいさんはその場に倒れた。


「おい、誰か倒れているぞ!」

 若者の一人は倒れているおじいさんを見つけた。

「もうだめだ、息絶えている。弔ってあげることしかできない。こんな工場の前では、静かに眠ることもできまい」


 やさしい若者によって、おじいさんは、母なる大地に埋められた。


 私は死んだのか。よいよい、この世で為すべきことを為したまで。この若者の優しさがあれば、世界は幸せであろう。


 おじいさんの魂は、涅槃の安らぎのなかで、静かに眠った。


 定義:𥝱

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