第3話 不可思議

「ちくしょう!なんとしても逃げ切ってやる・・・」

 不可思議は懸命に逃げていた。


 罪状:8乗数にも関わらず4乗数であることしか申請しなかったことによる脱税


 不可思議は高貴な生まれながら貧乏であった。いつも無量大数に活躍の場を奪われながらも懸命に生き続けていた。不可思議は見た目からすぐ8乗数であることは明らかだった。しかし、8乗数は異常な金額の税金であった。


 身分の高いものからはそれなりの税金を取るべきだ!


 そんな声が高まっていた。


 平民にすぎなかった256は、コンピュータの出現とともにIT部門で活躍。一躍時の人となって、莫大な富を築いた。


 そんな256を妬む声は多かった。16はその代表格である。64の台頭によって一時期苦しめられながらもなんとか独自の路線を守り続けたが、256の権力の前には本当にどうしようもなかった。

 16は8乗数への追課税を主張した。6561は始めこそ猛反発したものの、奇数控除が検討されたことで、妥協した。


 そして、8乗数への課税が制定されると、奇数控除を受けられない1679616なんかは必死に8乗数ではない振りをしていたが、ついに脱税が明るみに出て、問題となった。


 脱税者には、厳罰を。


 1679616の事件から、8乗数には更に風当たりが強くなった。一億は元々大富豪であったが、タックスヘイブン3進法に20222011112012201の名で預金を隠していた。しかし、遂に捜査の手から逃げられなくなり、納税額80%増しと、懲役2年の実刑が言い渡された。


 不可思議は懸命に逃げていた。所有のロケットは、当時最高峰、最大加速度64m/s^2を誇っていた。


「ふん、いくら逃げようったって無駄さ」

 三角数組幹部、高度合成警察署長、36。愛称は三郎。三郎は警察署の倉庫からミサイルを取り出した。

 それは非正則武器の特別免許が必要である高出力ミサイル。その名もテトレーション砲。

「まず3を充填せよ!」

「高さ3で撃て!」


 高度7625597484987に達するそのミサイルを目視すると、不可思議はエンジンの出力を高めた。


「ちくしょう、俺は逃げ切って、以前の生活を全うするんだ!」


「4を充填せよ!」

「高さ3で撃て!」


 3.40×10^38に達するミサイルを目視したとき、不可思議は絶望に打ちひしがれた。もうだめかもしれない。くそっ、くそっ!


「5を充填せよ!」

「高さ3で撃て!」


 不可思議は気付かなかったが、ミサイルは不可思議のロケットを掠め遥か彼方に飛び去っていった。


「三郎さん、これ以上ミサイルは無駄遣いできませんよ」

 50はそう警告した。

「あ?なんだ?このやろう!てめえは高度合成数でもないくせに偉そうなこと言ってんじゃねえ!」


「おまえなんかただの平方数だろうが!」

 50は冪乗数和という会社の社長であった。持ち前の頭脳で、一代にして複数の子会社を持つ大企業の社長であった。その子会社には、かの有名な1729が社長の株式会社三乗数和がある。

 そのプライドが36の高圧的な態度を許さなかったのである。


「なんだと?この野郎!誰にむかって口を聞いている!50!」

 三郎がそう叫ぶと50は3.0×10^64まで飛ばされてしまった。


 懸命に逃げる不可思議の前に突然何かが飛んできた。ぶつかったらこっちのロケットも破壊される。逆噴射でなんとかストップする。そして、その姿を見た。それは、不可思議もよく知っている50の成れの果てであった。

「お、おい、おまえは、、50!」

「ふっ、久し振りだな。こんなところで会うことになろうとは」

「どうしたんだ、こんなところで」

「36に逆らったらこのザマさ。お前こそ何をしている。地上はお前の話題で持ちきりだぜ」

「お前にはわからないだろ?8乗数の辛さが。そして、俺は聞いちまっまんだ。256が16乗数32乗数64乗数にも同様に課税するべきだ、と主張して、各界もそれに賛成しているということをな」


 それから長い間二人は話し合った。幼いころの思い出、どのような勉強をして、どのような仕事をしてきたか。そして、50はかつての初恋の女の子10が、苦労に苦労を、二乗に二乗を重ねていまの不可思議にまで上り詰めたことを知った。不可思議は、いまや不思議な魅力を持った美しい女性だ。だが、無量大数に対抗するためにどうしても男らしく振るわなければやっていけなかったのだという。不可思議も、50が1と49の助言で平方数和を設立、彗星の如く表れた1729とも意気投合してやっていることを知って、彼なりの苦労と努力を認めた。そして、二人共帰る場所がなくなってしまったことを嘆いていた。

「一緒に暮らさないか?」

 50は落ち着いてこういうと、不可思議も頷いた。二人は五十不可思議と名を改めた。以来、8乗数の取り立ても、平方数の取り立てすらも来ることはなく、冪乗数和は顧問として関わり続けることができるようになった。人に注目されることはほとんど無くなったが、広い宇宙のどこかで、今でも幸せに暮らしているという。


 定義:不可思議

10^64=10000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000

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