聖なる夜はぼくのフレンドと

こんぶ煮たらこ

聖なる夜はぼくのフレンドと

◇~ふたりだけのクリスマスパーティ~


「おぉ~~~なんでしょうこれ」


ここは地下遺跡の一角にある物置部屋。そんなガラクタだらけの寒々しい部屋からスナネコの声が響いてきます。


「んー?どうしたー?大量のジャパリコインでも見つけたかー?」


スナネコの声に反応して後ろの方からツチノコの声も聞こえてきます。どうやらふたりは今日も仲良く遺跡探検の真っ最中のようです。


「ジャパリコインってそんな簡単に見つかるものなんですか?そもそもあんなもののどこがいいのやら……」

「へッ。オマエには分からんだろうなぁこの考古学のロマンってやつが」

「はぁ」


いかにも興味無さそうに返事するスナネコ、そしてそんなスナネコには目もくれず近くの箱を物色するツチノコ。相変わらず正反対のふたりです。


「でももうお宝なんて…………お?」


そう言いかけて立ち止まったスナネコの目の前に現れたのは自分より二回り程大きな木……どうやら作り物のようですがそこには見た事も無いような飾りが沢山施されていました。


「なにこれ。きれ~」


まあるい玉にふわふわの綿、赤と青のふさふさにてっぺんには金色に輝くお星さま…これだけでもとても楽しそうな雰囲気が伝わってきます。


「これはクリスマスツリーだな」

「くりすます?つりぃ??」


聞き慣れない言葉の連続に疑問を並べるスナネコ。

ツチノコの話によるとクリスマスというのはかつてヒトが行っていた行事の一つで、何でもどこかのちほーの神様の誕生日を祝う為のお祭りなのだとか。


「まぁもっとも人々に浸透していた文化としてのクリスマスはこんな風に飾り付けを楽しんだりお互いにプレゼントを渡し合ったりケーキを食べたり………」

「けぇき!?なんですかその美味しそうな名前」


スナネコの目がキラキラと輝きます。どうやら本能的にケーキが食べ物、それもとびっきりに美味しいものであるという事を認識しているようです。


「じゃあぼくらもやりますか」

「やるって何をだよ」

「決まってるじゃないですか、クリスマスですよ」

「…はぁ?」

「ふたりだけのクリスマスパーティをやりましょう!」




スナネコの突拍子もない思いつきでクリスマスパーティを開催する事になったツチノコ。果たして二人は無事まんぞくなパーティを開催する事が出来るのでしょうか。

クリスマスはもうすぐそこです。











◇~どっちをとるの!?~


「クリスマスパーティのお誘いだぁ!?」


そして迎えたスナネコとのクリスマスパーティ当日、ツチノコの元に思いもよらぬお知らせが届きました。


「そうなのだ!かばんさんが企画してくれて今皆で準備をしているところなのだ」

「それでツチノコも良かったらどうかなと思って誘いに来たのさー」


事情も知らずにそんな素敵なお知らせを持ってきてくれたのはアライさんとフェネックでした。ふたりともクリスマスの仮装なのかお揃いの真っ赤な帽子を被っています。


「あのなぁ…!いきなり当日にそんな話されてもオレは………」

「ちーなーみーにー、今回の目玉でもあるプレゼント交換会ではパーク中のフレンズから集められた色んな景品を用意しているらしくてー、特に目玉はかばんさん特製のクリスマスケーキとおんせんのてれび?から回収された大量のジャパリコインが………」

「な゛に゛ぃーーーーーッ!?」


ツチノコの目の色が瞬時に変わります。一度スイッチが入ると周りが見えなくなってしまうツチノコの悪い癖が出た瞬間でした。


「(どうする行くべきか…!?いやしかしさすがに今からじゃ……)」


ツチノコは迷いました。まさかスナネコとの約束をほっぽり出してかばんちゃんのクリスマスパーティに参加するつもりなのでしょうか。

そしてしばらく考えた後決心したようにこう言いました。


「よ、よし分かった!そういう事なら………」








「なるほど。そういう事だったんですね」

「スナネコ!?」


まるで見計らっていたかのようなタイミングで現れたのはスナネコでした。彼女は怒るでも悲しむでもなく、ただいつもの表情でツチノコを見ています。


「あっいや……これは違うんだ……」

「何が違うんですか?別に行けばいいじゃないですか」

「い、いや………オレは行きたいだなんて……。そ、そんなに怒るなよ……な?」

「?別にぼく怒ってませんけど」


そう告げるスナネコの表情は変わらず“無”を描いており、それがかえってツチノコの恐怖を助長させます。これではまるで蛇に睨まれた蛙…ではなく猫に睨まれた蛇です。


「じゃあぼく用事が出来たので行きますね」

「えっ!?あ、おいッ!!」


そう言うとスナネコはその場から逃げるように立ち去ってしまいました。

さぁ大変です。ツチノコも急いで後を追います。


「クソッ!!とにかくあいつに勘違いだって伝えないと……!!」












そして最後に取り残されてしまったふたりは………。


「アライさーん、またやってしまったねぇ」

「フェネックぅ!?」










◇~猫を訪ねて~


「(クソッ!!オレのせいだ……オレがあの時一瞬でも迷ったりなんかしたから………)」



ツチノコは走りました


足跡すら残らないこの広大なさばくちほーでただ一人スナネコを探す為に



「おーーーい!!スナネコーーーー!!どこだーーー!?」




そうやって声を枯らして叫びながら




「オレが悪かったーーーー!!だから話を聞いてくれーーーー!!!!」




砂漠の陽炎に消えていったスナネコを探して




「(そうだ……オレは別にジャパリコインなんてどうでもよかったんだ……!本当は………)」





走りました


走って走って走って走って………


ただひたすら走りました





そうして気が付けば日は落ち、たどり着いたのはさばくちほーの最果て………目の前に広がっていたのは白い砂原


「さばくちほーにこんな所があったのか………。はは…………まるで雪だな」


がっくりと膝をつきその場に崩れ落ちるツチノコ。最早体力の限界でした。


「クソッ………。今日は神様の誕生日なんだろ………少しくらいの奇跡があったっていいじゃないか………」


刺すような冷たい風が容赦無くツチノコの体温を奪っていきます。そう、砂漠の夜はとっても寒いのです。


「………ん?何だこの音は………」


その時です。

向こうの方から何かごうごうと大きな音を立てて近づいてくるのが聞こえました。


「あッあれはッ!?」


砂嵐です!

周りの白い砂を巻き上げながらまっすぐこちらに向かってきます!


「ま、マズい!!このままだと………うおわあああああぁぁぁぁぁ!!!!」














◇~一方その頃スナネコは…~


わいわい、がやがや、ここはゆうえんち跡。

どうやらこちらではかばんちゃん主催のクリスマスパーティの準備が着々と進められているようです。


「え、アレが欲しいの?」

「はい」


そんな中ギンギツネと話していたのは何とスナネコでした。何という事でしょう。ついにツチノコに愛想を尽かしてしまったのか、スナネコはかばんちゃん主催のクリスマスパーティにやって来ていたのです。


「う~ん…そうねぇ。キタキツネ、どうしよっか」

「いいんじゃない…。どうせあんなの誰も欲しがらないし」

「えっ……あれ元々あなたが選んだんじゃ……。まぁいっか。はい、じゃあこれ」


そう言うとギンギツネは近くに置いてあった真っ赤な長靴をスナネコに渡しました。ずっしりとした重さがスナネコの手に伝わってきます。


「それにしても珍しいわね、スナネコがそんなもの欲しがるなんて」

「あ、いえ。ぼくは別に」

「?」


ギンギツネはコン、と首を傾げました。とりあえずはお目当ての物も手に入れたようで一安心のスナネコでしたが一つだけ心配な事がありました。


「それよりいいんですか。ぼくがこれ貰っちゃったら他にプレゼントを用意しなきゃいけないんじゃ…」

「あっ」


しまった、と言わんばかりにギンギツネの顔がみるみるうちに焦りの表情に変わってゆきます。


「ど、どうしよう……燃えないゴミが綺麗さっぱり無くなるからって喜んでる場合じゃなかったわ…」

「大丈夫。ボクがとっておきの持ってきたから」


そう言ってキタキツネが取り出したのは不思議な模様が描かれたお椀でした。きっちり蓋がされており中までは確認出来ませんが、何やらその蓋にはもっちりとした奇妙な白い物体が描かれています。


「おぉ~なんですかそれ」

「これね、凄いのよ。ふっくらって言ってね、ここにお湯を注いで砂時計の砂が全部落ちるととっても美味しいお料理になっちゃうの!」

「違うよ、ふっくらじゃなくてどんべゑ…」

「あら、そうだったかしら。良ければスナネコも今度一緒に………あれ?」













◇~さばくに舞い降りた白い奇跡~


「う……うぅ……………ここは………?」


あの大きな砂嵐に巻き込まれたあと、ツチノコが目を覚ましたのは小さな洞穴の中でした。すぐ先の入り口からは冷たい風がひゅうひゅうと潜り込んできます。


「た、助かったのか………?そ、そうだ……それよりあいつを探さないと…………」


しかし身体がズキズキと痛み思うように身動きが取れません。仕方がないので一旦姿勢を変えようと寝返りをうつと………。


「スナネコ!?」


何とあれだけ探しても見つからなかったスナネコが隣ですやすやと寝息を立てて寝ていたのです。そう、ツチノコをここまで運んでくれたのは彼女でした。


「…またお前に助けられちまったな」


ツチノコはスナネコの寝顔を眺めながらはぁ、とため息をつきました。その顔は何か昔の事を思い出しているようにも見えました。








「ケーキ…プレゼントしてやりたかったな………ん?何だこれ」


ふとツチノコが反対側を向くとちょうど枕元の辺りによく目立つ真っ赤な長靴が片方だけ置かれていました。

まさか…!?ツチノコはいても立ってもいられずまるで子どものようにその靴の紐をほどきます。


「こっこれはッ………!?」


中から出てきたのは何とジャパリコインでした。しかもその数は十、二十…いえもっとあるかもしれません。


「こいつ………これを手に入れるためにわざわざ…………」


そしてそれを見た瞬間、何故かツチノコは笑いが堪え切れなくなり思わず吹き出してしまいました。


「……ぷっ、くくくくくははははは………!!考える事は一緒、か」







考える事は一緒


ケーキ プレゼント


ツチノコは確かにそう言いました。一体どういう事なのでしょう。眠っているスナネコの頭を優しく撫でながらツチノコは静かに語りかけます。


「なぁスナネコ……お前があの時どこまで話を聞いていたのか分からないがオレはジャパリコインが欲しくてかばんのクリスマスパーティに行こうとしたんじゃないんだ」






そう、ツチノコがプレゼント交換会の話を聞いた時反応したのは大量のジャパリコイン………ではなくかばんちゃん特製のクリスマスケーキの方だったのです


スナネコがクリスマスパーティをしようと誘った時、彼女がケーキという言葉に食い付いたのをツチノコは見逃しませんでした


でもそもそも自分はケーキという食べ物は知っていても、それが甘いのか辛いのか、固いのか柔らかいのか、中に何が入っていてどんな材料を使っているかなんて何も知りません


ましてやそんなものを自分で作るなど到底不可能です


だからツチノコは考えました


あのかばんが作ったケーキだったら安心してスナネコも食べてくれるしきっと美味しいと言ってくれるに違いない


そう踏んだのです


全てはスナネコの喜ぶ顔を見たいが為に




「だから…………ありがとな」












「どういたしまして」

「!?」


返って来るはずのない返事に驚きツチノコはスナネコの方を見ます。目に写ったのはニヤニヤとこちらを見ているスナネコの顔…。


「おッ………おおおおオ゛マ゛エ゛エ゛エ゛ェ゛ェ゛いつから起きてたーーーーー!!?!?」

「そうですね……ツチノコが目を覚ました辺りからでしょうか」

「最初からかよッ!!!!」


ツチノコのツッコミが洞穴の中でこだまします。


「…という事は今の話全部………」

「はい」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!」


恥ずかしさに耐えられなくなり思わず絶叫するツチノコ。真っ赤になった顔からは湯気が立ちのぼっています。


「はぁ……。お前なぁ、何であの時一言も言わずに出ていったんだよ」

「え?ぼくちゃんと言いましたよ。用事が出来たので行きますねって」

「はぁ!?………………あ」


ツチノコはあの時の事を思い出しました。そしてスナネコが確かにそう言っていた事も…。どうやらスナネコへの誤解を解くために東奔西走していたツチノコでしたが、勘違いをしていたのはツチノコの方だったようです。


「だからってあのタイミングであんな事言われても誤解するだろッ!!…まったくオレがどれだけ心配したと………」

「じゃあツチノコはぼくの事心配してこんな所まで来たんですかぁ?」

「なッ!?」


ズバリ図星をつかれうろたえるツチノコ。その時突然スナネコが急に外を指差して叫びました。


「あっ、ツチノコ!見てください、外!」


スナネコの指差す先、空からは何やら奇妙な白いふわふわが降っているのが見えました。


「ん?あれは雪か?いやしかし………あ、おい!!」


一目散に駆け出していったスナネコを追ってツチノコも外に出ます。そこには月明かりに照らされて輝く雪がしんしんと降り積もっていました。このさばくちほーには長いこと住んでいますが雪が降ったことなどこれまで一度もありません。


「す、凄い……ホントに降ってる………」


キラキラ、ぱらぱら、透き通るように白いこな雪が空から舞い降りてきます。ずっと見てるとそのまま吸い込まれてしまいそう。


「うわぁ~ぼく雪って触るの初めてですけど何か砂みたいなんですね」

「何言ってるんだ雪っていうのはもっとこうふっくらしてて…………ん?」


ツチノコは手に落ちてきた雪をまじまじと見ました。確かにそれはざらざらとしており、粒も小さく、そして溶けるでもなく手に残っています。これでは本当にただの白い砂………その時ツチノコははっと気付きました。


「……なるほどな」

「ツチノコー?どうかしたのですかー?」


初めて見る雪に大興奮のスナネコは早くも遠くの方でズバババと雪かき遊びをしています。その扱いはまるで初めてとは思えない程見事なもの…。

そう、これは本当の雪ではなく先程の砂嵐で巻き上げられた砂が時間と共に落ちてきていたものだったのです。でも雪を知らないスナネコにとってはこれが雪が降ってきたかのように見えたのでした。


「フッ………少しくらいの奇跡、ねぇ」


でもこれでいいかと思いました。

だってスナネコがこんなに楽しそうなんですから。

ツチノコは向こうにいるスナネコに叫びます。




「…スナネコ!メリークリスマス」

「はい…!メリークリスマス!」


そしてそんなふたりを見守るかのように、白い砂の雪はいつまでも降り続いていましたとさ。


おしまい

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