第二章 黒い瞳(5)
*R15です。女性に対する暴力、暴行の描写があります。ご注意下さい。
5
「いやあああああ!」
悲鳴は神殿に響き、眠っていたルツと鳩を叩き起した。居間で独り酒を飲んでいた雉も、一瞬で酔いが醒めた。
切迫した恐怖を、魂の存在を揺るがす危機を、声は訴えた。
「いやあっ! 誰か! 誰か、救けて!」
隼は、鷲と顔を見合わせ、聞き慣れない声のぬしが誰であるかに気づいて、全身から血の気が引いた。鷲の眼が、これ以上はないほど開く。
鷲は、隼より先に、扉へ駆け寄った。
「シジン! 救けて……!」
「鷹!」
部屋の外にでた鷲は、暗い通路の片隅でうずくまっている彼女をみつけ、息を呑んだ。凝然と眼をみひらき、がたがた震えている。
遅れてきた隼も、その姿に眼を
「鷹、どうして……?」
「大丈夫か?」
『まずい。聴かれたか』 内心で舌打ちをしながら、鷲は、努めて冷静に声をかけた。ゆっくりと近づく。
鷹は足元の床を
嫌な予感がして、隼は、つよく眼を細めた。
鷲が片方の膝をつき、腕を伸ばして彼女に触れようとしたので、隼は、鋭く息を吸い込んだ。
「いけない、鷲」
「いやあっ!」
喉が破れそうな大声をあげて、鷹は腕を振りまわした。それは鷲の頬を張り、手加減なしに彼の胸を叩いた。
鷲は顔を背け、片目を閉じて耐えたが、心に受けた衝撃は、その何倍も強かった。
「やあっ、来ないで! 救けて、シジン! 誰か!」
「鷹……あっ」
隼は駆け寄ろうとしたが、鷹の投げた灯火が肩に当たり、小さく悲鳴をあげた。熱い油が腕に降りかかり、彼女はよろめいた。
「隼」
ぎょっとして振り返る鷲に、隼は、歯を食いしばって応じた。
「大丈夫だ。それより、鷹を……」
悲鳴を聞きつけて、雉とルツが駆けて来た。鳩も。
「何だ? 今の声」
「いったい、なにごと?」
「鷹お姉ちゃん?」
そして、三人とも、息を呑んで立ち尽くした。
鷹は、眼を閉じて暴れている。鷲は、彼女の腕を掴み、落ち着かせようとした。鷹には彼の声は聞こえないらしく、血を吐くように叫び続けた。
「いや、いや、いや! 来ないで! 放して!」
「鷹」
「やあっ! シジン、救けて……!」
鷲は彼女を揺さぶりかけたが、子どものことが頭をかすめた。触れている限り彼女の混乱は収まらないと気づき、手を離した。
「分かった。ほら、放したよ……。来るなって言うなら、近づかない。頼むから、落ち着いてくれ。俺の話を聴いてくれ」
「…………」
「どうしたんだよ、鷹。何があった?」
「いや……」
鷲が数歩後退し、優しく語りかけても。自分で自分の身を抱く彼女の黒い瞳には、何も映し出されていなかった。かたかたと歯を鳴らして震えている。
ようやく鳩にも、状況の異常さが判った。
「お姉ちゃん?」
「隼。何があったんだ?」
雉は、立ち上がる隼に手を貸しながら訊ねたが、彼女の表情に気づいて口を閉じた。
隼は、火傷の痛みに歯を食いしばりつつ、治療をしようとする雉の手を払いのけた。紺碧の双眸は鷹を見詰め、唇は蒼ざめていた。こめかみが、じっとり汗ばんでいる。
雉は、鷹と鷲に視線を戻した。
「シジン、救けて……」
鷹は両手で己を抱き、うわ言のように呟いている。その身体が、やわらかな白い光に包まれて、ふわりと宙に浮いた。
鷲の長髪が、風もないのに揺れている。
鷹に触れられない鷲が、苦し紛れに
鷲の頭も、かなり混乱し始めていた。
「俺の言っていることが、判らないのか?」
「……無駄よ、ロウ(鷲の本名)」
それまで長杖を片手にじっと鷹の様子を見守っていた《星の子》が――さすがのルツも、動揺を隠しきれない様子で、早口に囁いた。
「ここに居るのは、《鷹》じゃないわ」
「…………!」
鷹以外の全員が、一斉に彼女を振り向いた。心臓が凍る心地で。
睨み殺さんばかりの目つきでルツを顧みた鷲は、その視線を鷹に向けると、辺りに音が響くほど奥歯を噛み鳴らした。
『だったら、俺の鷹は、どこに居るんだ?』
鷲の若葉色の瞳が黄金に輝き、銀灰色の髪が踊った。彼の能力の全てが、容赦なく、眼前の鷹に向かう。
彼がしようとしていることを察して、ルツは叫んだ。
「ロウ、おやめなさい。そんなことをしたら、彼女の意識が壊れるわ!……ロウ!」
「鷲……!」
鷲と共鳴する能力をもつ雉も、異様な気配に息を呑んだ。隼は、茫然と、宙に浮かぶ鷹を
鷹は、恐怖に頬を引き攣らせ、激しく首を振っていた。「いや、いや」という呟きが、またしても、激しい叫びに変わる。鷲の歯軋りと、鷹の悲鳴と……。
耳を塞ぎたくなりながら動けずにいた雉の脳裡に、突然、ある光景が広がった。
「いやあ! 救けて……!」
強引に鷹の意識に入り込んだ鷲の能力を通じて、ルツにも、それが感じられた。――凶暴な力で腕を掴まれ、腰を、脚を、無数の手に捻じ伏せられた感触が。
叫ぶ口を殴られて、眼前に火花が散った。肌に赤いひっかき傷を残して、衣が剥ぎ取られる。涙に濡れた頬に砂が貼りつく。さらに叫ぼうとすると、口に布が押しこまれた。
『いや! シジン! ナアヤ! 救けて!』
喉の奥でどんなに叫んでも、声にはならない。みひらいた目に、一瞬、青い空がしみた。すぐ、日焼けした男の顔に遮られる。うめいていると、さらに頬を張られて、気が遠くなりかけた。
太腿に、腕に、男達の指がくい込む。下卑た嗤い声が、脳のなかで渦を巻く。その中に、かろうじて、しわがれた男の声が聞こえた。
「レイ!」と……。血に濁る声は途切れ、閉じようとする努力も虚しく、脚は力任せに開かれた。
『いや!!』
そして、身体が引き裂かれる激痛……殺されるかと思うような。悲鳴は、喉を締められて塞がれた。全身が硬くこわばり、反射的に受け入れまいとしたが、乱暴に揺さぶられては無理だった。
痛みに、気が遠くなる。――やめて、もう、やめて……。うわ言のように思った。
いつまで、これが続くのだろう。いっそ死ねたら楽になれると考え、気を失い、気がつくと、同じ苦痛のなかにいる。
そんなことを何度か繰り返しているうちに、ぐるりと世界が回転して、彼女は何も判らなくなった――。
ルツは両手で口をおおい、絶句した。
雉は我に返った途端、すうっと身体の力が抜けるように感じた。それから粗い震えが湧きおこる。『何だ? 今のは……』 身の毛がよだつ思いで鷹を見た。
そして鷲は……凝然と、鷹を観ていた。背中を仰け反らせた彼女の身体から力が抜け、白い光のなかに、ふわりと漂う。黒い瞳を半ば見開いたまま、彼女は気を失っていた。
その恐怖を、苦痛を、己の心に感じて、鷲も動けなかった。
やがて、鷹が、床の上にゆっくり頽れる。
全員が声も無く見守るなかで、鷲は彼女にちかづき、抱き上げた。あまりの出来事に思考はついて行けないが、深い哀しみと後悔が、その面には宿っていた。
**
鷹を寝室へ運んだのち、一同――鷲、隼、雉、鳩、そしてルツの五人――は、居間の
鷲は、
鳩は、そんな彼に、かける言葉がない。
ルツも、悲痛な表情で、じっと考え込んでいる。
雉は、隼を案じていた。《古老》の能力に目覚めていない彼女が、あの記憶を垣間見たとは思わないが。――両肘を天板に突き、掌を額におしあててぐったり眼を閉じているさまは、彼女こそ、今にも倒れてしまいそうだ。火傷の手当てこそ受けたものの、何をする気力も湧かない様子で、沈み込んでいる。
しかし、いつまでも黙っているわけにはいかない。雉は、遠慮気味に口を開いた。
「あのさ」
鷲と隼とルツは、動かない。鳩だけが、彼を振り向いた。
「説明してくれないか。何があったんだ?」
鷲は微動だにせず、隼は、かすかに首を振った。
雉は仕方なく、鳩と顔を見合わせた。少女は机上に身をのりだし、鷲に話しかけた。
「お兄ちゃん。ねえ……鷹お姉ちゃんに、何があったの?」
妹の声も鷲には聞えないのか、冷たい沈黙が返って来ただけだった。鳩は、改めて雉と顔を見合わせ、肩をすくめた。
ルツが、溜め息まじりに囁いた。
「鷹の記憶が、戻ってしまったのね……」
雉は、再再度、鳩と顔を見合わせてから、《星の子》に向き直った。
「ルツ」
「可哀想に……。あんな目に遭えば、無理もないわ。ずっと、忘れていたかったでしょうね」
鷲と隼は、黙っている。雉も、言葉を失った。
意味の判らない鳩は、やや苛々と訊き返した。
「どういうこと? 記憶が戻ったって。鷹お姉ちゃんが居ないって?」
「《鷹》は、記憶を失った彼女が新しく創りあげた人格よ」
ルツは、少女をなだめるように囁いた。隼が、うすく眼を開ける。
雉は、動かない鷲をちらりと見遣ってから訊ねた。
「どういう意味だ?」
「……そも。人格は、その人が生まれながらに持つ傾向――陽気だとか、怒りっぽいとか。そういう原始的な性格の上に、経験や学習が記憶として重ねられ、築かれるものよ。人は、記憶や周囲からの影響を無くしては、『その人』では居られない」
ルツは瞼を伏せ、己の知識を探りつつ説明した。澄んだ声を聴きながら、鳩は、鷲の様子を窺った。じっと足元を睨んでいる鷲にも、無論、話は聞えているはずだった。
彼等に理解できるよう言葉を選んで、ルツは続けた。
「彼女にも、彼女本来の記憶と人格があったわ。それが、あんな――酷いことを経験した彼女は、自分の心を守る為に、その記憶を、他の記憶とともに封じてしまった。いわば自己防衛……。彼女が自分の意志でそうしたとは考えにくいけれども。そうならなければ、彼女は生きていられなかった。そして、《鷹》が現われた」
「……鷹ちゃんには、人格が二つあったのかい?」
雉が訊ねると、ルツは、困ったように首を振った。
「世間で言う二重人格とは違うの。あれは、様々な面をもつひとつの人格のうち、両極端な性格を示している。多重人格とも違うわ。あれは、複数の人格が同時に存在している状態。……《鷹》の場合、最初から、人格はひとつよ」
雉は理解しきれず、眉間に皺を刻んだ。ルツは、そっと嘆息した。
「己に関する記憶を失った場合、人は、『その人である』情報を失うわけだから……言わば、人格が築かれる前の、産まれたばかりのような状態に、戻ってしまうのだと思うわ。勿論、全てを失うわけではないんでしょうけれど……。記憶を失った直後の彼女は、真っ白だった。そこから今までの時間をかけて、彼女は、《鷹》になっていったのよ」
雉は、鳩も、我知らず息を殺して、ルツを見詰めた。
「そして、記憶が戻ったいま――」
《星の子》は、夜空を宿した眸を伏せ、聞えるぎりぎりのところまで声をひそめた。
「――彼女のなかに、《鷹》の意識は感じられない……。《鷹》であった期間を跳び越えて、彼女は、記憶をうしなう前の状態に戻ってしまった。本来の彼女に。《鷹》が居ないと言ったのは、そういう意味よ」
鷲と隼は、身動きひとつせずに、ルツの言葉を聴いていた。雉は理解しきれず、瞬きを繰り返した。
鳩の反応は速かった。少女は目をみひらき、腰を浮かせた。
「待って……。お姉ちゃんは、失くしていた記憶を取り戻した代わりに、鷹お姉ちゃんだった記憶を無くしたってこと? 忘れてしまったの? あたし達のことを」
「……要するに、そういうことね……」
「何よそれ!」
椅子を倒して立ち上がる鳩を、ルツは、哀れみを含んだ目で見遣った。雉が眉根を寄せる。
隼は、再び眼を閉じた。
雉は舌打ちして、鳩を宥めた。
「鳩」
「だって、雉お兄ちゃん! 酷いじゃない。こんなのって。あんまりよ!」
「よせよ、鳩」
「あたし達と一緒に過ごしたことは、お姉ちゃんにとって何だったの。以前の記憶が戻ったら、忘れてしまうの? お姉ちゃんにとって、あたし達って、その程度なの?」
「やめろよ、そんな言い方」
雉は、語気を強めた。隼が、居たたまれない様子で首を振る。
いかにも鳩らしい反応ではあった。漆黒の瞳を怒りで煌めかせる少女に、雉は、慎重に語りかけた。
「程度とか、そういう問題じゃないだろ。彼女にも、どうしようもないんだ。……記憶を失ったり、取り戻したり。それは、鷹ちゃんのせいじゃない」
「そんなこと、判ってる!」
長いお下げを揺らして、鳩は頭を振った。徐々に大きくなる声に、雉は眉を曇らせた。
「鳩」
「でも、あたし達はどうなるの? あたし達の、鷹お姉ちゃんに対する気持ちは! お姉ちゃんは元に戻れていいかもしれないけれど。鷲お兄ちゃんは? お兄ちゃんとお姉ちゃんの子どもは、どうすればいいのよ!」
「うるせえ」
……殺気を帯びた低い声に、鳩は、息を呑んだ。雉とルツも、驚いて鷲を顧みる。
今までじっと動かずに考え込んでいた鷲が、初めて口を利いたのだ。
隼は、項垂れたまま眼を開け、彼に意識を集中した。
鷲は腕組みをした姿勢を変えなかった。大声ではなかったが、抑制された口調には、言い知れぬ凄みがあった。
「お兄ちゃん」
「ぎゃーぎゃー喚くな、鳩。さっきから、考えごとしてんのに、ちっとも纏まらないじゃねえか……。雉も、鳩と一緒になって、くだらねえこと言ってんじゃねえよ」
鳩は、しょんぼりした。ルツが、息だけで呼ぶ。
「ロウ」
「ルツ。あんたの話は解った。俺が知りたいのは、三つだ。答えてくれ」
鷲は、目だけでルツを見た。若葉色の瞳に普段の朗らかさは無く、飢えたような鋭さがあるのを、ルツは哀しく見返した。
「どうしてこんなことになったのか。鷹は今、どういう状態なのか。……元に戻るのか。この三つだ」
ルツは眼を閉じていったん口を開けたが、すぐには答えられなかった。溜め息をつき、躊躇いながら囁いた。
「一つ目は、私は判らないわ……偶然としか。私に、予知はなかった。だから、鷹の記憶が戻ったのは、偶然としか言えない」
「充分だ」
鷲の返事を聴きながら、隼は、胸がえぐられるように感じた。こんな状況でも自分を思い遣る、鷲の気遣いを理解したのだ。言外に『隼のせいではない』と伝えようとした優しさは、かえって彼女を苦しめた。
「二つ目は?」
「……彼女は、一時的に、記憶をうしなう前の状態に戻っている。あの体験をした直後に……。かつては記憶を封じて精神の崩壊を免れたけれど、今度は、そうはいかないわ。乗り越える
ルツは柳眉を寄せ、難しそうに口ごもる。雉と鳩は顔を見合わせてから、鷲を見遣った。
隼は、肩を落としている。
鷲は、ぎりりと奥歯を噛み鳴らした。
「これは、あの
ルツは、真摯な眼差しを、鷲の面にあてた。
「――ロウ。あなたの『元に戻る』という言葉が、彼女が《鷹》の人格を取り戻すという意味なら……。その答えは、あなたが、一番良く知っているのではないかしら」
言い終えたルツは、彼の彫りの深い横顔を見詰めた。感情を抑えた瞳で。
鷲は彼女を見ずに、右手の親指を噛んだ。爪を噛む、などという生易しいものではなく、喰い切ってしまうのではないかというほど、強く。
雉と鳩は、ぞっとしながら鷲を見た。絵師見習いだった彼が利き手を大切にしていることを知る鳩は、痛々しさに眉をひそめた。
隼は、動くことが出来ない。
雉は、小声でルツに訊ねた。
「治す方法はないのかい……?」
ルツは瞼を伏せ、辛そうに首を横に振った。雉は、溜め息を呑む。
重苦しい沈黙が、一同を包んだ。
鷲の奥歯を食いしばる音が、部屋の空気を軋ませる。ぎりっと。噛んでいた指には、血が滲んでいた。
ルツは、誰に言うともなく呟いた。
「……ひとは、経験を全て記憶しているわけではないわ。強烈な、印象に残る出来事だけ。普段は忘れたと思っていても、後から同様の体験をすれば、思い出すわ。……彼女が記憶を失い、《鷹》が生まれた。その時と同じような事が、もう一度起これば――」
「ルツ」
「それ以上、言うなよ」
雉が呼び、鷲が遮った。鷲の声は、凍るように冷たかった。
鷲は溜め息を呑んで、口調を和らげた。
「それ以上、言うな、ルツ。でないと、俺は、あんたの口を引き裂くぜ」
「ごめんなさい」 と、消え入るような声で呟き、ルツは眼を閉じた。
鷲は、苛々と歯を噛み鳴らした。雉は、声をかけられなかった。隼が、弱々しく首を振る。鳩も声を失った。
一同は、また、沈黙に捕らえられた。
やがて。耐えかねたように、鷲は立ち上がった。
隼が視線を上げたものの、また項垂れてしまう。彼女と雉とルツを見下ろし、鷲は、ぼそりと言った。
「……悪い。しばらく、独りにさせてくれ」
そう言うと、鳩には目もくれず、部屋を出て行った。
鳩は、途方に暮れた表情で立ち尽くしていたが、一拍置いて、後を追いかけた。
雉とルツは、どちらからということもなく、顔を見合わせた。
「しばらく、そっとしておいてあげましょう」
「ああ。それがいいよな」
「さて、残る問題は……隼」
憔悴した様子で頬杖を突いている隼に、ルツは声をかけた。雉も、彼女を見る。
隼は、すぐには反応しなかったが、二人の思い遣りに満ちた視線を受けて、のろのろと面を上げた。
「隼……私達に、教えて頂戴。偶然とは言え、何故、突然、鷹の記憶が戻ったのか。あなた、知っているでしょう?」
隼は、美しい《星の子》の顔を、茫然と見詰めた。およそ見たことがない程やつれているのが気懸かりで、雉は、彼女の顔を覗きこむ。それでも、紺碧の眸には、明晰さが戻りつつあった。
「隼。辛いなら、明日でも、いいんだぜ?」
「いや、大丈夫だ……。今、言うよ」
気だるく片手を振り、溜め息をつく。声にも、凛とした響きが戻り始めていた。
ルツは、内心で胸を撫で下ろした。鷲はまだ混乱しているが、隼は自分の役割を知り、立ち直ろうとしている。《鷹》より、この二人が平常に戻ることが先決だと、ルツは考えていた。
《星の子》と雉に向き直り、隼は、話し始めた。
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