少女とロボットは想う
ぱちぱちと薪が爆ぜる音がする。少女は体育座りをして、膝に顎を乗せてじっと火を焚き火を眺めている。
たかだか二十年前。少女が生まれる少し前だ。あんな世界はもっとずっと昔のことだと思っていた。
「ねぇ……どうして世界は終わってしまったのかな」
「さぁ、どうしてだろう」
少女はぐっと膝に顔を埋める。
「キミが悩むことじゃないよ。それより、お宝が見つかったんだ。今はそれを喜ぶべきじゃないかな?」
ロボットは努めて明るく言った。
外ではまた雪が降っていた。窓は閉めているものの、冷たい空気は容赦なく入り込む。
「そうなんだけど……なんだか、悲しいなって」
くぐもった声が冷たい部屋に落ちる。
少女は一向に顔をあげない。ロボットは小さくため息をついて、口を開いた。
「あの時代は技術が一気に発展したんだ。当然、生活はより豊かに、より便利になった」
「それなのに、どうして?」
少女は少しだけ顔を上げた。ロボットはそれを確かめて続ける。
「慣れ、じゃないかな。豊かであり、便利であることに慣れてしまったんだと思う」
「そうあることが当たり前になった?」
「そうだね。そうしていつしか、そうでないときのことを忘れてしまった」
沈黙が落ちる。
「だから、生きられなくなったんだよ。人は一度手に入れたものはなかなか手放せない。土台が大きく揺らいだ時、生きる術を見失ってしまうんだ」
「……うん、そうだね」
少女はまた、膝の間に顔を埋めた。
「ずっとあり続けるものなんて、ないのにね」
「……」
ロボットは答えられなかった。代わりに、焚き火を迂回して少女の隣に寄り添う。
「ボクはなるべくキミのそばにいるよ。キミが直し続けてくれる限り、ね」
「……うん」
少女はロボットを抱きしめた。鉄でできたその体は冷たい。でも、温もりを感じた。
「うん……」
もう一度頷く。
「しょうがないね、まったくキミは……」
苦笑を漏らしつつ、ロボットは少女の髪にそっと手を伸ばす。
薪が一度大きな音を立てて割れた。外では雪が降っている。けれど、この部屋の中だけは、少しだけ温かい。
世界に空いた穴の向こう側 相葉 綴 @tsuduru_a
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