第8話 出会い系サイトを使う
四角い部屋のなか、わたしはひとりでスマートフォンを操作していた。出会い系サイトに登録してみるためだ。
世界には愛が足りない。だから×××は通り魔にならざるを得なかった。わたしだって愛がほしい。思えば尊属殺法定刑違憲事件だって愛があれば事件にすらならなかったのだ。
出会い系サイトはやたらピンクでいかがわしいイメージがあったが、実際に登録してみるとそんなことはなく、むしろ健全に出会いを求めているような感じだった。けれどもやはり一皮むけば即物的なつながりを求めている人間が大勢いた。そしてわたしのその中の一人だった。
出会い系サイトでは掲示板で相手を応募したりタイプの相手を探してメッセージを送れたりするようだった。女性の写真やプロフィールを見ていると、この人はいいな、この人はちょっとな、というふるいわけの気持ちが湧いてくる。しかしわたしには相手を選り好みするようなことをできる資格はないはずだった。
誰かを好きになるというのは簡単なことだが、好きでいるということはとても難しいことだ。好きというやわらかであたたかい感情はいともたやすく性欲とまざり、暗く濁っていく。わたしは安易に他人に好意を抱くことあったが、その好きという感情を綺麗に保つことはできなかった。すぐになくなるか濁る。
愛をもらえるならもう誰でもいいじゃないか。そのためなら自分の感情など排するべきだ。とにかく手当たり次第にメッセージを送ってみると何人かから返事が来る。
見知らぬ女性と空疎なやりとりをすることは楽しかった。そこには自分の存在が肯定される喜びがあった。愚かなことだ。だが愚かであることが身の丈に合った幸福を得る希少な術なのだ。
出会い系サイトに慣れた頃、わたしはお金を払ってそのうちの何人かとラブホテルに行って性的奉仕を受けたりするようになる。以前湯女にお前はセックスでは幸福になれないと嘲笑されたものだが、それでもわたしはセックスを諦めきれていなかったのだ。これをきっと買春というのだろうけれど、労働で人生を切り売りすることは奨励されているのに、性を売り買いすることが禁じられているのは控えめに言って滑稽だった。だからわたしは罪悪感なく女性を消費した。ただ、自身の心身をすりおろして得た対価をこんなくだらないことに費やしてしまうことには、自分の人生の価値が実に虚しいことには胸が痛んだ。
幾度と非合法な性的消費を行ってわかったのは、やはりわたしがセックスで幸福になることは難しいということだった。性的快楽は良いものだったが、そのためにいちいち他人と関わるのは煩わしかった。性的交渉をするためには相手に対して性的交渉を行えるだけのまっとうな人間であることを示さなくてはならないからだ。わたしはそのまっとうな人間とやらではなかった。そうわかった。なのでまともらしくふるまうことが苦痛だった。
ある時のこと、わたしは何度か会っていた売春婦に対してクソ上司がいかにクソであるかという愚痴を零していた。
それならさあ辞めればいいじゃん。売春婦は言う。仕事なんてもっといいところあるって。
転職。
目から鱗が落ちるようだった。が、やはり無理だと思った。
わたしは言う。
転職なんて簡単にできないよ。担当してる仕事もあるし。
別にいいじゃん。そーゆーのはそのクソ上司に押しつけて。後は野となれ山となれ、だよ。自分が辞めた後の職場より自分の方がどう考えても大事だって。
でもそんな簡単に次の仕事が見つかるとも限らないし。
結構見つかるよ。私も転職したことあるけどわりとすぐ見つかったし、仕事も前の職場より楽になったよ。しちゃえばいいいじゃん、転職。
売春婦は思いのほか親身に転職を勧めてくれた。
その場ではまあ考えてみるよと曖昧な返事をしたが、家に帰ってから今一度転職について考えてみるとこれはなかなか良いアイディアであるように思えた。そうだ、好んで地獄にいる必要はない。つらいなら逃げだせばいいのだ。どうしてこんな単純なことも思いつかなかったのだろう。人間窮すると思考が行き詰るものなのだと実感する。
それからわたしは転職サイトに登録し、空いた時間に次の職を探しながら日々を過ごしていた。いつか転職するということがわたしの支えだった。
貯っと、EE仮名。しばらくはおとなしかったクソ上司に呼び出される。あもs-m凝れ何で小名風に成っていLも?
クソ上司が指摘したのは取引先のクレームに対する回答書だった。そのクレームでは我々が提供したサービスには不備があり、それはこちらに責任があると述べられていた。検討した結果こちらに落度は確認できなかったものの、今後の取引を円滑に進めるためにわたしはクレームの要求を一部認める形で回答書を作成していた。
内2背k人難点な8いhのいうどうしてセキ認gbアル幼に書くNka茄あ。
あの、それについては一部認める形でよいか確認をとったと思うのですが。
えw、簿得て亡ぃO。一手ないよ。本島に書くん真の? 大腿うち画わryないうぬm同紙てmtめちゃうのい> おj香椎で所為。
すみませんでした。
わたしはクソ上司の指示に従って回答書を作成したことはクソ上司の意思にそぐわない不適切な行為であることを謝罪した死ね。
hsy作ンそしておいて苗。
クソくらえだと思いながらわかりましたと言う。
クソくらえだ。
クソくらえだ。
クソくらえだ。
それなら辞めればいいのだ。売春婦の化粧っぽい顔が思い浮かぶ。
あの、とわたしはクソ上司に言う。
およそ二カ月後、わたしは仕事を辞めた。
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