第6話 ぜんぶわたしがわるいので

 昼休みになった。

 わたしはデスクの引き出しからカロリーメイトとゼリー飲料を取り出した。食べる。これがわたしの昼食だった。食べ終える。仕事を再開する。

 わたしは何をやっても駄目なのでゆっくり昼食を取ることなど許されない。わたしのような人間がゆっくり休むなど悪いことだ。わたしは仕事のできないので昼休みも働かなければいけない。わたしが悪いわたしが悪いわたしが悪いわたしが悪いわたしが悪いわたしが悪いわたしが悪いわたしが悪いわたしが悪いわたしが悪いわたしが悪いわたしが悪いわたしが悪い。だからわたしは仕事をした。

 クソ上司がわたしを呼びつけて尋ねる。

 r著っとkおれなんんで紺ナ風担っているの¿ KOレ姉、間ち違がってルカリ。

 すみません。

 すかおいし考えてばwa狩るこておでしょうk! 常識敵2かgなえ! 耳―、枚ったんん、薪腹kjが疽南ア事も和歌らないトハ思って亜中ヨ。けんっ集でyらんかたん? Ah,比丘が町安久ってた。毛君は研修uekte内ってkagnaeるから。

 それは例のごとくクソ上司がわたしに丸投げした案件だった。全く新規の案件であったにもかかわらずこれやっといての一言しかなかったため、わたしは過去の事例を参考にして進めた。しかしそれでは適切な資料の作成ができていないということだった。わたしはもうどうしていいのかわからなかった。

 はあきり一手、この紫藤の適性ないとお身い〼。巣k粗衣Congoのこと缶が得t法がEnじゃない中あ。

 すみません。

 毛げん会でう。きmには病めてMoryます。決め増したたら。今度新めてEEmす。

 すみません。

 すみません。

 すみません。

 すみません。

 すみません。

 すみません。

 すみません。

 ぜんぶわたしがわるいです。

 ぜんぶわたしがわるいので終業時間になってぜんぶわたしがわるいので残業をしてぜんぶわたしがわるいのでわたし一人になるまで仕事してぜんぶわたしがわるいので家に帰った。ぜんぶわたしがわるい。晩御飯を食べるべきなのだがわたしがわるいので食事をすることはわるいことだった。買い置きしていたカップ焼きそばを食べることにしたけれどぜんぶわたしがわるいのでお湯を沸かす必要があった。三分待ってカップ焼きそばを食べたけれどインスタントな味で特に美味しくもなかったのでぜんぶわたしがわるかった。

 ぜんぶわたしがわるいのでわたしは何か気晴らしをしないとうっかり自殺してしまいそうだった。けれどぜんぶわたしがわるいのでわたしは何をすればいいのかわからなかった。考えた末にぜんぶわたしがわるいのでパソコンを立ち上げて体育座りをした。

 ぜんぶわたしがわるいで検索をする。自己否定は良くないよ的な結果が出た。だけどぜんぶわたしがわるいだけでわたしは自己否定などしていなかった。ただちょっとぜんぶわたしがわるいのでわたしは社会からきっと必要とされていないし、死んだ方がすっきり解決になるだけだ。

 ぜんぶわたしがわるいのでわたしがこれから何をしようとぜんぶわたしがわるいだけだ。そのままパソコンで尊属殺法定刑違憲事件を読む。強姦をしたいと思った。とても強く思った。けれど自分が女子中学生を強姦する図を想像してみたが、あまり性的興奮を得られそうになかった。たまに通勤中とかに中学生らしき女子を見かけることがあるけれど彼女らはイモくさい。女としてセックスの魅力が足りない。踏みにじるには丁度いいかもしれないが、強姦は性的興奮を得られなければ強姦できない。わたしが女子中学生を強姦することはちょっと難しいような気がした。

 ぜんぶわたしがわるいのでふと閃いた。通り魔だ。通り魔ならわたしだってできる。今さら人間の一人や二人殺しても変わらないじゃないか。いいじゃないか。別にもうこんな人生。ぜんぶわたしがわるいのだからいいじゃないか。

 台所から包丁を取り出す。包丁は命より軽かった。試しに斬りつけるように包丁を振ってみる。刃を横にして突き刺してみる。これで誰かを殺せるなんてあっけなさすぎて実感がなかった。

 通り魔をするならどこですればいいだろうか。最寄り駅は小さすぎて駄目だ。やるなら大きな駅の駅前だ。わたしは包丁をカバンに隠してこの近くで一番人の集まるターミナル駅に向かった。

 電車内でわたしはこの決意何かにを残しておかなければいけないと思った。なので×××に今からターミナル駅に行くからとだけLINEする。

 すると×××からすぐに返答があった。

 ちょうどいいや。俺も行くつもりだったから。会おうぜ

 会ってどうするというのか。わたしは返事を送らなかった。

 ターミナル駅に着いた。駅前にはたくさんの人間がいた。ざわざわと人ごみ。彼らの命にどれほどの価値があるのだろうか。わたしの人生にどれだけの価値があるのだろうか。なかった。日本に人間は多すぎてこの中の幾人が減ったところで何も問題はなかった。

 カバンに入れた包丁を握る。この人ごみの中に自分の人生の無価値さに苦しんでいる人がどれだけいるだろうか。社会で生きることに殺されてしまった人がどれだけいるだろうか。通り魔が来てくれることを心底望んでいる人がどれだけいるだろうか。でももう大丈夫。わたしがいた。ぜんぶわたしがわるいからわたしが誰かを殺してもそれはぜんぶわたしの責任だった。殺された人は何もわるくなかった。それでいいのだ。

 助けにきたよ。わたしが助けにきたよ。包丁を強く握る。さあ行こう。助けに行こう。わたしをわたしの人生から。誰かを誰かの人生から。わたしが助けに行くのだ。

 わたしはカバンから包丁を取り出した。

 そして。

 ぽんっと肩を叩かれる。

 ×××だった。

 彼は笑った。それはわたしの人生のなかで一番きれいな笑顔だった。

「俺が行くよ」

 そう言って×××は人ごみに向かって走り出す。懐から大きな刃物を取り出し、目の前にいた中年男性の首を切り裂く。何が起こったのか周りが把握できないうちに次はそばにいたババアの胸を突き刺す。

 誰かが悲鳴をあげた。恐慌が伝染する。×××は勇者のようにひたすら近くにいる人間に通り魔をしていく。

 ああ、なんてことだ。わたしは包丁をカバンにしまった。もうこんなものに意味なんてなかった。涙がこぼれる。わたしはとても感動していた。すべてが許された気がした。ありがとう。そう大声で叫びたかったがこみあげてくる嗚咽で声をあげることができなかった。ありがとう。ありがとう。ありがとう。わたしがしようとしていたことは間違ってなかった。わたしが全て悪いわけではなかった。わたしは生きていてもいいのだ。×××はそれを証明してくれた。ありがとう。

 わたしは泣きながら×××の勇姿を最後まで見届けた。

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