第3話 ラーメンを食べるだけ

 世界は滅びるべきだと思った。

 土曜日の朝。つまり明日が終わればまた月曜日が始まってしまう。それが恐ろしくて本当に憂鬱だった。わたしは何をすべきなのだろう。休みたい。そう思っても何をすればいいのかわからなかった。でも早く休まなくては月曜日になってしまう。月曜日! 月曜日! 月曜日!

 布団に入ったまま意味もなくスマートフォンをいじくっていると、×××からLINEがあった。

 ラーメンが食べたい

 食べろよ。

 ひとりじゃめんどくさくていけない

 その気持ちわかるわ。

 だから一緒に行こう

 どうしてそうなった。

 俺達、友達だろ

 友情の定義を再確認したくなるな。まあいいけど。

 じゃ、12時に現地集合でよろりん

 ×××は目当てのラーメン屋のURLを貼りつけた。豚骨魚介系ラーメンだった。

 わたしは約束どおり正午に店の前で×××を待つ。×××は少し遅れてやってきた。

 ちゃおー。おひさー。気の抜けたあいさつ。×××はだいたいいつもこんなふうによくわからないけどふざけたような感じだ。

 わたしは店一番のおすすめとやらを頼む。当然豚骨魚介系ラーメンだ。×××はそれの大盛を頼んでいた。

 最近どう?

 どうって言われてもな。クソ上司がクソだって話しかない。人生暗黒期なうですわ。

 あー、相変わらずそんな感じかあ。同情するしクソうける。

 ラーメンどんぶりに顔つっこんで溺死しろ。そっちはどうなの?

 ×××は頭がよい。こうして付き合っている分にはさっぱりそう見えないが税理士をしているのだ。

 え、オレオ? 依頼者の遺産を全部横領して自分のモノにできれば最高だなーって思ってるよ。

 犯罪だ。

 知ってるよ! でもなあ、うちらみたいな職業の敵は依頼者なんだよ。あいつらが一番めんどくさい。邪な思いくらい起きるわ。

 ×××は溜息をつく。

 思うんだけどさ、労働ってのは人生の切り売りだよな。売春がよくないなら労働はどうして許されるんだろうか。自分を切り売りする点じゃ何も変わらないのに。人生をスライスしてその切れ端が俺達の手元に残る。やってらんねーぜ、これが人生かよ。もう生きるくらいなら殺した方がマシだ。

 豚骨魚介系ラーメンがきた。食べる。きっと美味しかった。

 何を殺すんだよ。とわたしは尋ねる。

 誰かを。社会の理不尽を。あ、もし人生がつらくなったら言ってくれよな。俺がきれいきっちり殺してやんよ。駅前で待ち合わせな。とかなんっちて。

 ×××は笑う。その笑顔はいつもどおりだった。

 しかしここのラーメンわりと美味いな。アタリだ。

 ああ、美味い。

 ラーメンを食べる。それは美味しかった。

 自動ドアが開き、店内に大声が響く。理解できない言語。日本人と同じような造形。おそらく中国人だろう。彼らは自動券売機の前で何事かを相談していた。

 あー中国人だよ。×××は嫌そうに顔を歪める。

 嫌いなの?

 嫌い。だってあいつら俺達と違うじゃん。

 確かに違うね。

 俺達はさあクソみたいな労働に従事して日々つらい思いをしているんだからさ、何か一つくらい嫌いでもいいじゃん。仕方ないじゃん。だから俺は中国人が嫌い。

 そのとおりだ。わたし達はこんなにもつらい思いをしているので、誰かを嫌うことくらい許されないとおかしい。わたしはラーメンを選んでいる彼らを見る。中国人は嫌いだなと思った。

 ラーメンを食べる。それなりだった。

 さぱっとラーメンを食べ終えてわたし達は店を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る