私は少年と

 私は座席に戻る。

少年は起きている。

が。

ぼんやりと何かを考えている。

そんな感じだ。

邪魔してはいけない。


 隙間風が通り抜けていく。

私は、車窓の雪原を眺めていた。

奥には雪をかぶった山脈が。


 時々、透き通る氷に覆われた道路が平行に走る。

プスンプス

と、どうにも吹き出しそうな音をたてる二輪車がいたり。

ボンネットを跳ね上げ、エンジン周辺を覗き込む者がいたり。


 列車のスピードがガクンと落ちた。

キィンキィン

金属が擦れあう甲高い音が。


私は、寒いのを承知で窓を開ける。

首を出して何があったかを知る。


 駅、だった。

白いホームに白い駅表示板。

とてもこの列車が入り切りそうなホームではない。


しかし、止まる。


完全に列車が停車した頃。

顔を出していた私の前に、何かがあった。

否、何かではなくそれは人だった。


この、何もかが白いこの地に。

不似合いなほどの黒い装束に身を包んだ人が。

ゾワッとくるような黒い仮面で顔を覆っている。


 止まった機関車から、機関士が一人、ガクガク震えながら向かう。

黒の人のもとへ。

何も言わず、機関士は敬礼をした。


黒い人は、首だけを恐ろしい速さで向けると機関士は去る。


シュー

白い水蒸気が私のもとへ届き、機関車は発車する。


黒い人は、何もせず列車を見ていた。


 再び列車は、雪原を走る。

隙間風が身に染みる。


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