Arashino Yoruno Shounen
ありきたり、既視感の街から列車に乗って。
何本もの列車に抜かれた。
それでも、依然遅いまま。
旅はゆっくり、したいもんだ。
キコキコ
明らかに、列車の音ではない。
私は、座っているボックス席から通路へ首を伸ばす。
若い女が、小さな手押し車を押している。
きっと食べ物とか売っているんだろう。
私は買うつもりはない。
私は。
ただ、正面の少年は少々違うようだ。
興味津々、といった目でこちらを見てくる。
「買わないからな」
私は、そう告げる。
私は買ってやらないだけで、少年が自分で買えばいいのでは?
しかし、少年は金を持っていない。
そうなっている以上、少年には私に頼み込むしか道はないのである。
少年が勇気を出さない限りは。
少年がゴニョゴニョ言っている傍を通過していく。
名残惜しそうにしているが、もう無理だ。
女を口説いてどうにかするしかあるまい。
私はそんなことを考え、クスリと笑った。
しばらく。
私は、コートから手帳と万年筆を取り出す。
「第一、ありきたり、既視感の街」
それだけ書くと、万年筆を手帳に引っ掛け、コートにいれる。
少年が、急に立ち上がる。
おや。
まださっきの手押し車の商品が気になるか。
そんな事を考えられているとはつゆ知らず。
少年は、トイレを探しているのだった。
ドッドッド
少年は走って行ってしまった。
さらば。
そういえばこの客車、木製だな。
私は今更ながらそう思う。
木の温もりが感じられていいと思うが、、、が。
やはり隙間風が身に応える。
いつの間にか少年は、席に戻ってきており、畑のおばちゃんに手を振っていた。
私は微笑しつつ、コートを体にかけ、隙間風をしのぐのだった。
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