Arashino Yoruno Shounen

 私は、ずいぶんと涙腺に仕事をさせてしまっていたようだ。


それにゆり椅子も相まって、顔が大変な事になっているだろう。

ああ、その通りのようだ。


 しばらくの、沈黙の後、火照った顔をどうにかしようと模索する。


 窓ガラスには、何千もの雨粒がたたきつけられている。

時折、がたがた、と不安になる音を立てる。

よし、これしかない。


私は、昨日の夜から働いていない、ドアノブを回す。

途端に、暴風と雨粒がありとあらゆる方向から襲う。


鳥肌がたっている。

少し肌寒い。


だが、火照った顔にはちょうどよい。


暖炉の薪はまだのこっているか。

役目をはたして、死にかけていないだろうか。


念のために、確認くらいしておこう。


...少年がまた現れるかもしれない。


横を見る。


少年が、虚空を見つめていた。


髪は、竜巻が起きたかの如く巻いていた。

「おい、少年」

少年はこちらを向く。


そして、腰を折る。

「Arigatougozaimashita Dewa」


そう言い残し、後にする。


喉まで出かかっていた。

出かかっていた。


しかし、私は、何も発することはなかった。



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