第23話 ニートの気持ちが少しだけわかった気がしました。まる。

 あれから夜が明け、目を覚まし、手に持ったユグドラシルの枝らしき棒を鑑定してもらった。

 鑑定士の職業を持つ老人は目の色を変えていた。


「こ、これは……! 凄いっ! 伝説と言われていた神話級のお宝を鑑定できる時がくるなんて……! これをどこで?」

「ダンジョンだよ。ボス倒したらなんか手に入ってさ」

「ほほうっ! さぞかし無理難題ともいえる困難なダンジョンだったのでしょう!」

「いやいや、たまたまですって」


 話を膨れ上がらせる老人に俺は危険と感じたので歯止めをしておく。

 話しが膨らんでよくわからない魔族とか相手にされたらたまらないしな。


 俺がそう思っていると、

「とんでもない! ご主人の戦いっぷりといったら凄かったからな! ボスの使う瞬間移動すら先読みする程強かったぞ! それからな、それからな!——」


 何言ってんだこいつ!

 俺はただ、静かに暮らしたいだけなのに……!

 キュカの語りっぷりに老人も少しドン引きしている。


「あはははは、すみません。コイツ話しを盛る癖があってですね」

「い、いえ、いいんですよ。凄いことですからね」


 変に上ずった笑い声を出しながらキュカの頭を引っぱたき、訂正しておく。

 鑑定が済んだならもう用は無いのでとっとと帰るか。


「ありがとうございました。じゃあこれにて」


 キュカの首根っこを掴むようにして引きずって老人とわかれた。



  ▽



「あれ、二人とも朝帰り?」


 宿に戻ると、とっくに起きていた二ーファにそんな事を言われる。


「まあ、朝帰りと言われれば朝帰りだな」

「違うから。真夜中にダンジョンに入ってきただけだから」


 キュカが変な事を言うので訂正しておく。

 朝帰りって言うとなんかエロく聞こえるんだけど。


「ほうほう。女の謎の穴、言い換えるとダンジョンにいれてきたのね」

「深読みし過ぎだろ! その言葉のまんまダンジョンにいって来たんだよ!」

「なんだ、つまんないの」


 つまんなくて結構です……。

 変な誤解は生みたくないからな。


「そういえばさ、これはどうやって使えばいいんだ?」


 俺はユグドラシルの枝を取り出しながら二ーファに聞いてみる。


「え? 私が知るはずも無いでしょ?」

「は?」

「テキトーにお尻にでも突っ込んで見たらどう? 転生者の噂でネギをお尻に挿すと病気が早く治るって噂もあるくらいだし」

「いやいや、幼女のケツに神話級の枝をぶっ刺すとかありえないだろ。これだけで神話超えるわ」


 脳内でそんな感じの盆栽とか想像しちゃうだろうが。マニアック過ぎるわ。

 発想が斜め上をいくので悩む。

 ゲームとかだと寝てる仲間にアイテムを使ったり出来るんだけど、どうやっているんだろうか。まあ、ゲームの中なのでどうでもいいが現実だと対処が難しいな……。


「ご主人、その枝で叩いて見るとかはどうだろうか」


 考えてみてもロクな方法が思いつかない所を良さげな案を出すキュカ。

 俺は頷いて優しくほっぺを枝で叩く。


 ぺちぺちぺちぺち


 反応が無いな……

 というかこの絵面、幼女を眠らせて拉致った誘拐犯みたいで心苦しいんだけど。


「どうやら、全然意味無いらしいぞ」

「そうか……他にもう思いつかないな……」

「二ーファは他になんかあるか?」

「かじるとか食べるとか?」

「それじゃあ眠ったままのナナにはキツいだろ」

「やっぱ無理そうね。大人しくあと二週間待ちましょ」

「……そうだな」


 はぁ……せっかくナナをさっさと助けるために命懸けでダンジョンに入ったのに無駄になってしまった。


「ご、ご主人っ! ご、ご褒美の方はちゃんと叶えてくれるんだよなっ!」


 急にキュカは上ずった声をかけてくる。

 二ーファは呆れ顔でキュカを眺めている。


「は? 却下だ却下。ユグドラシルの枝が役立たずだし、今回は俺のおかげで勝てたようなもんじゃないか」

「ご主人がやったのはボスだけだろう。功績で言うとご主人は一割くらいじゃないか」

「そうかそうか。じゃあお前はボスを倒せたのか?」

「もちろんだな。その気になれば倒せたはずだ」


 キュカは余裕そうにこちらを見る。

 ボロボロになって帰ってきた癖によく言うよ。

 まあ、今回こいつが連れ出したから、俺の隠しスキルが見つかったわけだしな。少しくらいはいいかな。


「わかったって。で、お願いってなんだ? 変な要求は全て無理だぞ」

「そうだな……とりあえず今は保留って事にしてくれないか?」

「まあいいだろ」


 キュカは少し考えるふりをするが元から保留にするつもりだったのだろう。

 ここまできて残念なお願いだったら引張たこうと思ってたが、あてが外れたようでよかったな。


「ねえねえ、私にもご褒美ちょうだいよ」


 ニーファが隣からそんな言葉をかけてくる。


「いやいや……お前ダンジョン行ってないじゃんか……」

「えぇー! じゃあ私はなんで真夜中にたたき起こされたのよ! 美少女のお肌をなんだとおもってるのよ!」

「落ち着けって残念美少女」

「誰が残念美少女よ!」


 二ーファは抗議の目を向けてくる。

 もちろん俺は払うつもりは無い。


「だったら私が払おう」

「ほ、ほんと!?」

「あぁ。今の私はとても気分がいいんだ」


 二ーファはキュカを崇める神の様にすがりつく。


「じゃあさっそく行きましょ! 私欲しいものがあるの!」

「あ、あぁ、程々に買ってくれよ」

「ニートはお留守番でもしてなさいよね。ニートらしく家に篭ってなさい」


 小馬鹿にされた俺は仕返しをしようと手を伸ばすが、学習したのか危険を感じた二ーファはキュカの手をとり買い物に行ってしまう。

 いつもなら少しは追うが、今日は疲れが溜まっていたのでやめておいた。


 ドアに肘をかけ一言ぼやいた。


「はぁ……やっぱニートってどの世界でも厳しいもんなんだな」


 ニートの気持ちが少しだけわかった気がしました。まる。

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異世界でニートって許されますか? 凪風鈴 @nagikazesuzu

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