第22話 神じゃん?

「ブンブン、ハローカズトくん」


 どこかで聞いたことありそうな挨拶をしながら手を振る神がいた。

 もう会うことは無いって思ってたのに、またまた出てくるとかどんだけ暇なの?


「というか全然ボイパ出来てないじゃねえかよ」


 そういえば思い出した。あれからボスを倒して良くわかんない白い光に包まれてからどうなったんだっけ。


「思ってる事と言いたい事が逆だよ」


 こちらの考えを見透かした様に、というか完全に見透かしてチャラ神は言う。見下した様な目線が妙にイラッとする。

 勝手に人の考えを読まないで欲しいんだが。


「そういえばこれ似合う?」

「革ジャンか?」


 チャラ神は見た目が革ジャンみたいなのを着ている。


「惜しいけど違うよ、。これは神ジャン」

「は?」

「神ジャンだって。ボクってあまり神っぽく無いって言われるからさ? 神ジャン着てれば相手もわかってくれるかなって思って。ほら、僕って神じゃん? 神ジャン……神じゃんだけに……ぷぷぷ」


 ……本当にこいつ神なんだよな?

 明日あたりに全世界が滅びそうな勢いで下らないんだが……。

 チャラ神が勝手に一人の世界に入っていると思い出したように言う。


「そうそう、見てよコレ」

「なんだ? たんこぶか?」


 チャラ神は自分の頭を指差して俺に見せる。

 言われて見ると、チャラ神の頭皮の一部が少し腫れ上がっていた。


「そうだよ……君のせいで上司の鬼パンチもらっちゃったんだよ……」

「ご、ごめんって。俺が何やったかわかんないけど大変だったんだな」


 一瞬、辛そうな表情をするチャラ神を俺は宥める。

 俺、何かやったっけ……職業以外は怒られるようなことした覚え無いんだけどな……。


「本当におこだよ? カズトくんを乳酸菌に変えてボクの腸内環境良くさせるぐらいおこだからね?」

「本当に心当たりが無いんだけど」

「はぁ、これだからゆとりって奴は……」


 呆れた顔をしながら両腕「ひ」の字をつくる。

 俺ってゆとりなのか……?


「カズトくんが前に会った時に隠しスキルの事を聞いていれば、ボクは怒られずに済んだのに」

「それ俺のせいじゃなくね?」

「そう思う? ……じゃあ痛み分けとしてカズトくんの下半身だけを大腸菌に変身するって事でどう?」

「アンバランス過ぎるわ!」


 チャラ神は俺をからかうのを楽しみ、愉快そうに笑う。

 怒ったら負けだ……! 落ち着くんだ、俺……!

 頭を冷やし、気持ちを落ち着かせた俺は本題に入る。


「で、今回はなんで来たんだよ」

「そうだったそうだった。今回は君の隠しスキルについて教えに来たんだよ」

「ま、マジか!」

「マジのまじまじだよ。ほら、僕って神じゃん?」


 急な展開に俺は驚く。

 チャラ神は革ジャンをパタパタとしたり顔でアピールしてくるが、スルーしておく。


「で、そのスキルってどんな効果なんだ?」

「君の大好きなチート系だよ」


 ち、チート!

 なんだろう、努力して無いけど努力が報われた気分になったんだが。


「でもね、チートっていってもかなり限定的なチートなんだよね」

「どういう事だ?」

「家の中でしかチート状態にならない的な感じなんだよね」

「え? どういう事だ? 家ってもしかしてパリピが危ない薬をキメた時みたいなテンションで言うイェー!の方とか」

「違う違う。お家の事」

「それって……使えるの?」

「ぶっちゃけ、ほとんど使えない」


 マジか—————っ!

 いや、思った通りだけど!

 今回のダンジョンはたまたまお城っぽかったから上手くいっただけじゃん!


「まあ、ニートってあれじゃん? 家が聖域とも言っても過言じゃないじゃん?」

「過言だわっ! ニートは将来的に羽ばたく生き物なんだぞ! 羽ばたかなきゃいけない生き物なのに八方塞がりじゃねーか!」

「自宅警備員は自宅警備員らしく、永遠に聖域を守る守護者にでもなるといいじゃん」

「じゃん、じゃねーよ! 言い方かっこよくすればいいってもんじゃねーから!」


 ニートってここまで使えない職業だったのか……

 チャラ神は愕然として落ち込む俺に追い討ちをかける。


「ま、まあ、あれだよ? 難しいダンジョンだとお城みたいに成長するしいいと思うよ? でも努力してもステータスが上がることは多分無いよ」

「え、じゃあ雑魚じゃん」

「はぁ〜っ! これだからゆとりは困るね。世の中そんなに甘くないよ? ニートが天下統一出来ると思う?」

「そりゃあ、出来ないけどさぁ……」

「だったら頑張るしか無いんじゃない? ステータスが上がる事は無くても、新しく技術を磨くなり工夫はいっぱい出来ると思うんだよね。他人にすがったりする考えがそもそもニートなんだよね」


 ぐうの音でない。

 確かに言われてみれば思い当たる節も沢山あったな。

 転生前だって病人とはいえ、それをたてにして甘えてきた事だって何度もあったな。

 俺が考えてるとチャラ神はチャラそうな感じでない雰囲気で、ニコッと笑った。


「わかったみたいだね。こんな姿で言う様な事じゃないんだけどさ」

「いや、わかった気がするよ」


 少し清々しい気分になった。


「んじゃ、これにてバイビーだね。そういえば、隠しスキルの事は言っちゃいけないからね」

「なんでだ?」

「理由は今は言えないけど、言ったらそのスキルが無くなっちゃうかもよ〜」

「わ、わかった」


 いくら使えないチートスキルとはいえ、無いよりはマシってもんだからな。


「カズトくんの世界の時間は止めてあるから。戻ったら外に出てると思うよ」

「ボスの報酬はどうなったんだっけ」

「多分、カズトくんが持ってるよ」


 チャラ神は一拍おくと、

「じゃあ、お別れだね。また会えるといいね」

「俺としてはもう会いたくないんだけど」

「この年で中二病みたいなセリフはマジキモイよ」


「ちげーよ!」と言おうとしたら、一瞬でチャラ神の姿は消え、外に出ていた。

 そういえば真夜中にダンジョンに入っただった。よく頑張ったよな。


「ん、外に出たようだなご主人」


 隣でキュカが呟く。


「そうだな……ん?」


 手に違和感があったので見てみると木の枝を持っていた。


「なんだこれ」

「多分ダンジョンの報酬じゃないのか?ユグドラシルの枝ってニーファが言ってたからな」


 え、これが?

 耐久力の無さそうな、一振で折れそうなこの枝が?


「いやいや……ひのきのぼうって言った方がいいと思うだけど」

「よくわからないが多分それがユグドラシルの枝なんだろう。後で見てもらうといい」


 納得がいかないが、とりあえず一件落着だな。

 隣でキュカが座り、寝転がると大きく背伸びをした。


「ご主人、たまには外で寝ようか。今日は暖かいし、このまま寝ても魔族も襲ってこないだろう」

「そうだな……もう眠くて歩く気がしないからな……」


 キュカの隣に俺も寝転がる。

 地面も湿っぽくなく、意外と柔らかかった。


「じゃあ、おやすみ」

「あぁ、おやすみ」


 俺とキュカは外で綺麗な星に囲まれながら眠りに入った。

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