第21話 ……え、もう終わり?

「ほら起きろご主人! ダンジョンに行くぞ!」


 朝っぱらからテンションの高いキュカにほっぺをべちべち叩かれて起こされる。


「鬱陶しいなぁ……ってまだ暗いじゃないか」

「夜明け直前だから仕方ないだろう? 早起きはいい事だからな」

「よ、夜明け?!」


 寝ぼけて返事してたがよく考えたら真夜中やんけ。びっくりしすぎて変な方言になってしまうわ。おかげで目もぱっちり。


「なんでこんな時間に起こすんだよ……」

「ダンジョンに行くと言ってるだろうが! 二ーファもすでに準備してるぞ!」

「いやいや……こんな時間からダンジョンに行くのはなんか違うだろ……お前だってボロボロになって帰ってきたんだから、身体を休めてから行こうぜ? な?」


 二度寝に入りたい俺は無駄と分かっていてもなんとか時間を稼ぐ。

 流石にこの時間にダンジョンに行くのは危険な気がするからな。魔族ってなんか夜行性な感じがあるからな。


「なんとしてでも行くからな」


 そう言うとキュカはこちらに詰め寄り、真夜中に叩き起されたのにも関わらず元気な股間のシャイボーイを布の上から掴んだ。


「ちょ……冗談だろ……?」

「ふっ、ダンジョンに行かぬのならご主人の股間でハンバーグでも作ってやろうか?」


 お、俺のシャイボーイをミンチにするって言いたいのか!

 キュカは勝ち誇ったような笑みで言う。


「私はドMだ。普通のドMだ」


 ドMに普通なんてあるんですかね、と聞こうとしたが今は人質ならぬ、チン質を取られているのでおとなしくしておく。


「しかし!」


 キュカが俺のシャイボーイを掴む手が無意識に強くなった。

 痛い痛い! めちゃくちゃ痛いから!


「欲望のためなら時にはSにだってなるっ!」


 俺のシャイボーイを掴みながら吠えるキュカは、戦争に勝った大統領の様に見えた。この場合、女王様でも見えなくはない。


「さあ! ダンジョンに行くかハンバーグになるか選んでいいぞ」

「だ、ダンジョンに行くから……っ! だから離して下さい……!」

「ふふふ、いいだろう。これで勘弁してやる」


 懇願する俺を楽しむように見た後、キュカは俺のシャイボーイを離してくれた。

 離された後のシャイボーイは老衰寸前の爺やへと変貌していたが、生きてるだけまだマシってものだ。よがっだぁ……!


 俺が股間の安否に嬉し泣きしていると、

「ご主人、自分の股間を見てうれし泣きするのは、いささか気持ち悪いぞ」

「おめーのせいだよっ!」

「あんっ!」


 ドMへと戻ったキュカに全力で脳天にゲンコツをお見舞いしてやった。


 装備を整え、二ーファの部屋に入ると着替え途中の二ーファがベッドで寝ていた。

 多分、眠気に負けたのだろう。こんな真夜中にダンジョンに行く気なんて普通ないからな……

 というか、相変わらずの部屋の汚さだ。

 ダンジョンから戻ってきたら掃除でもさせるか。


「ほら、起きろ二ーファ! さっさと着替えろ!」

「んああ〜……もう無理ぃ〜……」


 寝ぼけてなのかよくわからないが、二ーファは顔を上げてそう言うと、また寝てしまった。

 何度かぺちぺち頬を叩いたり肩を揺すってみたりしたが一向に起きる気配がない。


「ちっ、もういい。起きないなら私とご主人二人で行くからな」

「それは無茶過ぎないか? いくらなんでもダンジョン初心者の俺たちが行くには荷が重すぎだと思うんだが」

「私は一度ダンジョンに入ったから中級者だな。付いてこい、ご主人」


 ご主人と呼ばれているのに、飼い犬扱いと同じような扱いをされる俺。

 遺言でも残しておくべきだったかな。



  ▽



「そういえば、ボスは瞬間移動みたいなのを使うぞ」


 街から出てダンジョンの入り口前に来ると、急にキュカがそんな事を言い出した。


「瞬間移動ってマジなのか? 脱出ポータルから出る前に殺されるんじゃないのか?」

「大丈夫だ。ボスは瞬間移動を何度も使うわけじゃなく、一度使うとしばらく使えない感じがあったな」

「他は?」

「途中の魔族はかなり弱かったな。そこまで好戦的じゃ無いからボス部屋まではサクサク行けたぞ。だけどボスがかなり強い」

「そっか。んじゃ、帰るか」

「そうだな! 行くぞ!」


 ダンジョンに背を向け帰ろうとするが、キュカは無視して俺の首を掴んでダンジョンに入る。


「キシャアアア!」

「フッ!」


 入り口を開けると同時に魔族が出てくるが、キュカが何気無い顔で切り伏せる。

 俺ならこの位の魔族なら十分程かけて倒すのだが、なんとなくキュカよりも早く倒せそうな気がした。

 そのままサクサクとキュカ一人で魔族を倒し、最上階まで来てしまう。

 思ったよりも魔族が多かったのでキュカもかなり体力を消耗してそうだ。

 俺がもっとつよければ良かったんだけどな。


「ここから先がボス部屋だ」

「それが脱出ポータルか?」


 扉の前に先端が丸い杖みたいなものがあったので聞いておく。


「そうだ、危険だったらそれに魔力を注入すれば外に転移されるぞ」

「そっかそっか、じゃあ遠慮なく——」

「今出てもいいが死ぬまで追いかけるぞ?」


 脱出ポータルに魔力を流して帰ろうとするが、ボス部屋を前にして仲間に殺されかけるなんて最悪過ぎる。

 逃げる事を諦めた俺は素直に従う。なんとなくだが、倒せそうな気がするんだよな。ほんとなんとなくだけど。


「わかったよ、やりますよ。ちゃんと戦って負けますよ」

「言っとくが、勝つまで逃げるのは禁止だからな?」

「俺に死ねと?」

「勝つまで死ぬなよ」


 そう言うとキュカボス部屋の扉を開けた。


「グアアアアアア!!!!!」


 ドアを開けると同時にボスが俺達を威嚇をするように吠えた。

 ボスは紫色のオーラを纏った骸骨で下半身は無く、上半身が浮いている姿だ。上半身だけで俺らと同じ位の大きさだ。

 右手には剣、左手には盾を持っている。剣も盾も錆び付いているのでそれほど脅威とは思えない。

 ボスは先に入ったキュカに狙いを定め、攻撃を仕掛けた。


「くっ! ご主人、そのままいけ!」


 骨の腕とは思えない力で剣を振り下ろしたボスの攻撃をキュカが受け止める。

 キュカの支持通りその隙を突こうと踏み込んだら——


 ——めちゃくちゃ飛んだ


 俺は凄まじいスピードでボスに頭から突っ込み、ボスと共に壁まで吹っ飛んだ。

 自分でもわけがわからないほどのスピードで突っ込んだが、あまり怪我が無いのに驚いている。


「危ない!」


 密接した状態でボスが俺に剣を振り下ろそうとするので、慌てて退こうとすると先程と同じくとんでもない早さで飛び、向かいの壁に飛んだ。


「ガアアアアアアアア!!!」


 剣を出さない俺に怒ったのか、ボスは俺を狙い、頭上に瞬間移動した。

 が、なんとなく勘で分かった。


「上だ!」


 キュカが叫ぶがもう気づいているので、ボスの顔面を抜刀術の様に剣を素早く出し切る。

 すると攻撃しようとしてた手が止まり、ボスは雄叫び一つあげずに消滅していった。

 ボスの気配が無くなったので、警戒するが場は静まり返ったままだ。


「……え、もう終わり?」


 よくわからないが、またステータスが上がったのだろうか。すぐにボスを倒してしまった。

 というか、今までで一番ステータスが上がった気がする。半ばチートって呼ぶくらい飛んだからな。

 キュカは恐ろしいものでも見たかの様に俺に近づいて来る。


「ご、ご主人がそこまで強かったなんて知らなかったぞ……というか、なんでそこまで強いのに協力してくれ無かったのだ!」

「いやいや……俺だってなんでステータスが上がるのか、分からなかったんだけどな」


 俺が言うとキュカは難しい顔で悩む。


「まあいいか、これでダンジョンクリアだな、ご主人」

「そうだな、帰るか」


 二人でポータルまで行き魔力を流し込む。

 すると辺りが光って視界が真っ白になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る