第4話 無能
『目標地点に到着。今の所は敵の反応は無し』
何事もなく僕たちは目標地点に着陸することができた。敵の気配はなく、辺りはまるで積み木を積み上げただけのようにビルが建っているだけだった。
本当に敵がいるのだろうか? そんな風に思ってしまうほど辺りは風の音だけがビルの隙間から流れ込んだ。
「先行隊である私達が道を開かなければならない。ルイ、地形データのアップロードを頼む」
「地形データ及び敵発生予測のデータをアップロードしておきました」
アップロードされたデータをみると敵の反応はなかった。確かに僕たちは敵の生体反応が発生したから出撃命令が出たはずだ。遠くにある本拠地からも確認できたものが現地で確認できないものなのか? しかも今、データをアップロードしたのは索敵能力、情報収集が優れたIモデルのルイだ。生体反応を確認できないわけがない。
おかしい。引っかかるところが多すぎる。でも本拠地にいる人たちがそんなミスをするだろうか?いやしないだろう。それなら原因はそう多くない。
「班長、戦闘準備をしてください。
恐らくこちらの電波を妨害する敵がいるようです」
「何を言っているんだ? 敵の反応は今の所……」
「ちょっと君何言ってるんですか」
「ヨウ! 後方を頼みます! ルイはヨウの援護を! 戦闘配置についてください!」
「おい、なに言ってんだ!敵なんてどこにも見当たらないぞ!?」
僕が叫んだと同時に建物の影から多くの敵がゆっくりと近づいてきた。
敵の姿が太陽の光に当たり少しずつあらわになった。その姿に僕は目を疑った。
「……人……!?」
その姿は僕たちに酷似していた。
鼻も、目も、口も。手には剣のような棒を持ち二足の足で着実に僕たちの方へ向かってくる。形、肉のつき方、全てが同じ。違うところは全部同じ見た目をしていることだけだ。
「……なんですか、これは」
「人……なのか?でも全員同じ顔だぞ……」
ルイもヨウもその姿を見て愕然としている。今となっては敵の反応が無かったこと、敵に妨害されていたことなど驚くことではなかった。ただ目の前にいる生物が滅んだはずの人類が目の前にいるという光景に全員言葉を失った。
「アイ、これが……敵なのか……?」
イルが小さく開いた口から震えた声を出した。
「……わかりません……ルイ、司令室に連絡取れますか?」
「できないです……妨害されています」
やはり相手が妨害しているということで間違いないだろう。ならどうして司令室は反応を察知できたのか? ならどうして僕たちを孤立させるような真似を……
「アイ! 避けろ! 」
突然の声に驚いたが、すぐさま後方に飛んで避ける。僕のいたところには数十本の剣が突き刺さっていた。やはり僕たちを殺すつもりで来ているらしい。
「ルイ!敵の情報をハッキングしてください!それまで三人で持ちこたえます!」
「やってます!今、僕に指図しないでください!」
ルイとこうしている間にも敵は一歩、また一歩と近づいてくる。イルの的確な射撃でも、ヨウの力強い振りでも列が途絶えることはない。
「どうなってんだよ!倒してもキリがねぇし……」
「っっ! 一撃一撃が重い……ここは一旦退くか……」
「班長! 敵の妨害電波を一時的に停止させました! 司令室に報告します!」
さすがルイだ。この短時間で敵の妨害電波を一時的にでも停止し、司令室に繋ぐことができるなんて……
でも、この場を脱却する手段が見当たらない……いったいどうすれば?
「仕方ねぇ! 俺とルイが敵の群れに隙間を作る! その間に二人は飛行機体までダッシュで戻れ!!」
「でも二人は……?」
「バカなんですか、私達のデータを誰かに渡しておけば新しい機体にアップロードすれば元どおりです。言ったでしょう?私達は量産できる
二人が発した《新しい機体》その言葉は今から二人は自爆するという意味を表していた。
「アイ、行くぞ」
「……はい……二人とも、また後で」
『また後で』 そう告げて僕たちは二人に背を向けた。ルイの逆妨害を合図に停止した敵の群れにヨウがレーザー砲を放つ。これを逃せば絶滅だ。そう思っても僕の足はなかなか前に進まなかった。
「悲しいのはわかる。だが……」
そう言いながらイルは僕の手を引きながら飛行機体の元へ走っていく。
手を引かれていても、持ち上げる足はとても重く、磁石に引かれるような感覚だった。
地面を裂くような轟音とともに背中に暖かい熱風が吹きつけた。
でもその風は僕にはとても冷たく感じられる。
『またなのか……?』
そんな言葉が口に出る代わりに、僕の目から冷たい何かが零れ落ちていくような感覚がした。
黒い白 黒崎江瑠 @elut0616
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