第6話

 スンジェは、追い詰められていた。

 

 あの夢で飛び起きた日、父王から、シヨルにはテイルとユソクを教育係にする、と言われた。


 元々、スンジェは、シヨルに何かを教えられるような人間ではない。スンジェはシヨルの遊び相手の様なものだ。


 しかし、シヨルも、もう九歳だ。何時までもスンジェと遊んでなどいられない。いくら、シヨルに甘い、父王でも、これを拒否する事は、許さないだろう。


 あの二人も、流石に、最初からシヨルに何かしようとは、しなかった。


 穏やかに、優しく、シヨルに教えていた。


(あんなに望んだ光景だというのに・・・あの夢が、どうしても、頭から離れない)


 スンジェには、どうしても、あの夢が、ただの夢だとは思えなかった。


 ふと、スンジェの目に、干された女官の服が映る。


 

 その日、二着の女官の服が消えたと、女官たちが騒いで、犯人捜しを行ったが、結局見つからなかったのだという。



 スンジェは、決心する。シヨルを、自由にすることを。シヨルを連れて、この国を出ることを。

 その為に、準備を始めた。

 見張りが手薄になる時間帯を、馬小屋に向かう際、一番人目に付きにくい道を、そして、シヨルをどうやって、見張りを掻い潜って、外に連れ出すかを、全て、調べ、考え、計画を練っていく。


 失敗すれば、自分の身が危ない。でも、そんな事は二の次だ。スンジェにとって、一番恐れているのは、夢が現実になる事と、シヨルが幸せになれないまま死ぬことだ。


 必ず、成功させる。


 もう、スンジェの頭には、それしかなかった。


 そうして、計画を練って、三日目の夜がやってきた。

 スンジェは、窓の外を見る。


 今夜は、曇っていて、月が見えない。

 スンジェは、暗い中、灯りを持つ、見張りや、見回りの兵士たちの動きを注意深く、見ていた。


 その時だった。


コンコン コンコン


 誰かが、扉を叩く。


「スンジェ・・・起きてる?」


「シヨル・・・様?」


 シヨルの声に、スンジェは驚いてしまう。

 この計画は、シヨルには話していないからだ。


 兎に角、急いで扉を開ける。


「一緒に、寝てもいい?」


 見張りの兵士たちがシヨルの後ろに控えていた。


「あ、はい。構いません。どうぞ、中へ・・・」


 シヨルを中に入れる。兵士たちは、流石に部屋の中にまで入ってくることは無かった。


「シヨル、どうしたの?」


 ばれないよう、声を潜めてシヨルに訊ねる。


「怖い夢見たの。その・・・えっと・・・テイルと、ユソクに、殺される夢・・・」



 全身の血液が凍りついた、気がした。


 ああ、もう駄目だ、これ以上は、もう、駄目だ。


「シヨル、これを着て」


「え?」


 スンジェは、シヨルに女官の服を手渡す。


 もう、無理だと、思った。だから、決めた。今日、シヨルを、此処から連れ出すと、決めた。


 長い夜が、始まりを告げた。

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