第2話
スンジェが5歳の時、シヨルが生まれた。
シヨルは、灰色の髪に、灰色の瞳をしていた。
ヤールートの、建国神話に登場する、アセナという雌狼と同じだった。
ヤールートでは、アセナが人間と交わり、人間の子を生み、その子は、ヤールートの初代王となった。そう、神話は、伝えている。だから、王室では、アセナと同じ、灰色の髪に灰色の瞳をした子供が生まれれば、問答無用でその子は、王となる事が決まっていた。
当然、シヨルも、末子でありながら、生まれて直ぐに、王太子となった。
その結果、今まで王位継承者として育てられてきた長兄であるテイルと、彼を王として支えるつもりでいた次兄のユソクは、表面上は喜び、祝福していたが、内心では、激しく、苦しい、行き場のない怒りと、理不尽すぎる絶望と、弟が誕生して、すぐ生まれた、弟に対する泥々とした憎悪を抱えてしまう。
それに、気が付いたのは、スンジェだけだった。
スンジェは三男だ。髪も綺麗な金色だったし、瞳も碧だ。王位継承なんて、彼には関係のない話だった。
スンジェは、長兄のように武勇に優れているわけでも、次兄のように知略に富むわけでもなく、特に、特徴のない王子。それが、スンジェだった。スンジェも、自分の事だから、それは、ようく解っていた。
それに、スンジェは、そんな兄二人に憧れていたし、兄たちが好きだった。兄たちも、スンジェを可愛がってくれていたから。
だからこそ、哀しかった。
スンジェは、純粋に、弟が生まれた事が嬉しかったから。たとえ、灰色の髪に、灰色の瞳をしていたとしても、彼にとっては、可愛い弟に違いは無いから。
憎まないで欲しかった。自分と同じように、可愛がってあげて欲しかった。
家族が、ぐちゃぐちゃになるのだけは、嫌だった。
でも、そんな彼の細やかな願いは、叶うことなく、兄たちは、冷たい瞳を、シヨルに向けていた。
ただ、灰色の髪と瞳を持って生まれただけなのに。
スンジェは、弟が、可哀想だと思った。
スンジェは、シヨルの部屋をよく訪れた。
そして、兄たちに、シヨルの話を聞かせた。
でも、睨みつけられたので、止めた。
「お前は、一体どっちの味方なんだ」
次兄は、スンジェにそう言って怒った。
どっちかを選ばなければ、いけないのだろうか。どちらも大事、では、いけないのだろうか。
スンジェには、解らなかった。
スンジェは、兄たちも好きだけど、せめて、自分だけでも、シヨルの味方でいようと、そう思った。
シヨルが3歳を迎えて、
ヨンアの誕生を、兄たちは祝福していた。ヨンアは心からの祝福を受けていた。
シヨルとは大違いだ。
そんなヨンアも、5歳になる頃には、幼いながらにも、いや、幼いからだろう、父母を独占するシヨルを嫌うようになった。
兄妹たちに、シヨルの味方は居なかった。
ただし、スンジェを抜かして。
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