アセナの涙
茉井葩
第1話
先の戦争の爪痕が残るコンスタンブール。かつて、900年ほど昔に栄華を極めた、美しい国、ヤールートの首都だった時の面影は消えてしまった。しかし、子供たちは、無邪気に瓦礫の中を駆け巡る。
そんな少年たちの声に混じって、大勢の人間の罵声が聞こえてくる。
今、少年たちが無邪気に駆けている、この道。かつて、処刑場へ向かう道として、咎人が歩かされた道だ。
少年たちに重なるように、石を握り、道を歩く罪人が通れば、罪人に向かって投げつける、かつての人々の姿が浮かび上がってくる。
今日は12月22日。創生暦6615年に、大罪人である、ヤールートの第三王子、スンジェが処刑された日。即ち、創生暦7515年の今日は、彼の900年目の命日にあたる。
900年前、スンジェも此処を歩いたのだ。
罵声を浴び、憎しみを向けられ、石を投げつけられながらも、彼は、処刑場を目指し、歩いたのだ。
歴史書は語る。
彼は、投げつけられた石が、当たって、血を流しても、唾を吐き掛けられても、真っ直ぐ前を見て歩き、処刑の時も、穏やかに笑っていたのだと。
その顔が、あまりにも穏やかだったから、とても、そんな残虐な行いをしたというのが信じられない。と。
それでも、彼は、自ら証言した。
自分が、弟であり、王太子であった、まだ9歳の第四王子のシヨルを殺害し、遺体をバラバラにしたあと、獣に食わせ、骨を砕き、適当にばら蒔いたのだ、と。
そして、その証拠として、獣の牙と爪で引き裂かれ、獣の毛が付着した、見るも無惨になった、シヨルの血塗れの服を王の目の前に、持ってきたのだから。
両親である、王と妃は、嘆き悲しみ、王太子を殺したスンジェを憎み、スンジェを拷問し、散々苦しめたあと、スンジェに死刑を言い渡した。
彼が言い渡された死刑は、この国の死刑の中で一番重たい、三日間眠ることを禁じ、拷問による痛みと、空腹で、動くことも出来ないくらい、見るも無様な姿で、処刑場まで、鎖で繋がれ、歩かされて、民衆が見ている中、一本、また一本と、急所をワザと外しながら、槍を体に刺していき、じわじわと痛みに苦しみながら死んでいく、というものだった。
こうして、スンジェは死んだ。
皆、スンジェは、地獄の炎に閉じ込められて、死んでも永遠に苦しめ、と叫びながら、死体となったスンジェに石を投げ続けていたという。
しかし、不思議なことに、スンジェの死に顔は、安らかであった。
ただ、歴史書は、この、事件の真相は、スンジェの死によって、永久に葬られたのだ。と、そう締め括っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます