注目

 人が溢れる駅のホーム。一人の男は、首の後ろを掻き毟りながら小さく呟く。


「誰も僕を見てくれない。僕を。僕を見てくれない。ここにいるのに」


 好き勝手に伸びた前髪が、男の目元を覆い隠す。


「見てよ。見てよ。ここにいるのに───」


 電光掲示板の表示が変わり、アナウンスがホームに響く。ベンチに座っていた人も列に加わる。その男はと言うと、出来上がった列の横、一人佇んでいた。


「二番線列車が参ります───」


 ホームの奥から列車がブレーキ掛けてやって来る。男の姿はホームから消えていた。


「見てる。見てる。僕を見てる。皆が見てる。僕はいる───」


 その一時間後、次の列車が到着した。

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