第6話 変わらないモノは俺達の思い出

 計画の名前はなんだっけな…


 EEPDNTTJRなんとか、だっけな…


 もう、どうでもいいや。

 あのハゲ頭の博士も、宮なんとかとしか思い出せないが、会見場にいた記者たちもその程度にしか覚えてなかったし。


 ロケットには適当に誰か乗せて飛ばすんだろうな…。


 妙に冴えた気分だ。

 感覚すべてが研ぎ澄まされているような気がする。

 するべきことがひとつに絞られたからだな。


 ノブハルに問い詰める。


 どうしてオレを騙した?

 オレはオマエを人生で一番の友だと思っていた。少しズレたとこもあるが、同じ夢を追ってここまできたかけがえのない友だと。

 もうオレの知ってるあの頃のオマエじゃないってことか。変わっちまったのか。


「ヒデオ…お前の言う通りだ。今までずっと申し訳なく思ってた…すまん…」


 世間もたいして注目していないこのミッションを前に、オマエはガリガリ君を待って、お守りをくれ、しりとりをし、本を読んだり、歌を聴かせてくれたりしたな。まさかオレを騙して、ひかるまで狙っていたとはな…。



「ちょ、ちょっと待ってくれよ!パンを置き忘れたこと黙ってたのも、中学のときひかるんるんと付き合ってたことも、言い出しにくかっただけで、騙すつもりなんてなかったし、本当にひかるんるんと一緒にお前の帰りを待ってるつもりだったんだ!それだけは信じてくれ!」


 何を見え透いたウソを。

 そういえばカップ麺も作ってたっけな。

 それもこれも全部、俺の準備を遅らせてミッションを失敗させるためだろう。慌てて飛び立って、宇宙のチリとなるのを期待していたんだろう。お粗末な計画だなノブハル。


 研ぎ澄まされたオレの感覚は、もう口にしなくても想いが伝わるかのように、目だけでノブハルを追い詰めていた。


 もう、呼び出しのブザーはならない。

 遠くでロケットの点火の音がした。

 あのハゲ、結局誰かを乗せて打ち上げることにしたのか…。


「…信じてくれヒデオ」

 ノブハルは俺の顔を覗き込むと、ふとテーブルに目を移した。

 カップ麺がある。


「そうだ!忘れてた!お湯入れたんだった」

「関係ないだろノブハル…ごまかすな」

「いいからちょっと食べてみろよ。これが俺の気持ちだ」

「いいかげんなことを言うな。わかってんだオマエのくだらない計画なんて!なんでそんな伸びきったラーメンが…んぐっ」


 ノブハルは無理やりオレの口に麺を突っ込んだ。お湯を入れて15分以上経った、冷めたコシのない麺だ。


「こ…これは…」

「な?」

「どうゆうこと、だ?」

「どうだ?俺ウソつかないだろ?信じてくれるか?」


 信じるもなにも。

 生まれてからこんなに美味いカップ麺、食べたことない…!


「言ったろ?15分以上待って柔らかくなったヤツがサイコーだって!」


 ノブハル…!

 オマエを疑ったオレを許してくれ!

 こんな美味かったなんて…!


「ノブハル…悪かった…オレはオマエを…」

「いいってことよ!それより、そのラーメン見覚えないか?」

「こ、これは!」


 それは『コンちゃんラーメン』だった。

 オレたちが子どものころからずっとCMしてる『コンちゃんラーメン』…何年経ってもずっと新発売!の『コンちゃんラーメン』だ。


「俺たちがさ、宇宙飛行士になる!ってみんなの前で言った時、クラス中に笑われたよな?でも、俺もお前も宇宙飛行士になった。俺とお前、あの頃と何にも変わっちゃいないんだよ。」


 …変わらないモノ。


 そんなもんこの世にないって決めつけていたのはオレだったのか。


「俺に計画があったとすれば、そのラーメンだ。思い出したか?」


「これって…あの時の!」

 研ぎ澄まされた感覚が、ひとつの光景を浮かび上がらせた。


 初めて『コンちゃんラーメン』を食べた時。オレとノブハルが出会って間もないガキの頃。うっかりお湯を入れてからそのまま遊び出しちゃって、冷めて伸びたラーメン食べたっけな。

「この新発売のラーメン、変な味〜」

「アハハハ!フニャフニャだぁ!」

 そんな他愛ないこと言って笑い合ってたな…美味い美味いって食べてたな…すっかり忘れてたよ。


「俺たちはずっとあの頃のままだ!『コンちゃんラーメン』が何年経ってもずっと新発売のままなように!」


 そうだった!

 変わらないモノがここにあった!


 嫁とか、アダ名とか、地球とか、そんなちっぽけなモノのために、大切なモノを見失うところだった…。


 ピロン…ピロン…


 付けっ放しのテレビ画面にニュース速報が出た。


【EEPDPTAOK?計画失敗。ロケットは打ち上げ直後に空中爆発。宮神宮博士の責任問題に。】


「あの計画、そんな名前だっけ?」

「もうちょい長ったらしかったぞ。『?』ついてるし…」

「あのハゲ頭の博士、なんだっけ?」

「宮なんとかだったけど、宮神宮じゃないのはわかる」

「思い出した!鈴なんとか、だった気がする!」

「アハハハ!そうだそうだ鈴なんとかだった!」

「変な名前〜」


 変わらないモノ。

 それは俺たちの友情。

 それは例え地球が消滅しようとも、変わらない…ずっと。


 テレビ画面はCMを流していた。


『コンちゃんラーメン、新発売!ネギラーメンもね!』



 おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

飛んで!ヒーロー! じょりー @jory44

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ