第33話 祖父の知り合い
現代日本に戻った東条は朝まで眠った後、久しぶりに雑貨商店を開店した。すると客入りがいつも以上に良く、盛況な賑わいを見せていた。中にはいつ営業再開するのか楽しみにしていたという客もおり、この店も愛されていたのだと、東条は自分のことのように嬉しく思えた。
「今日も一日が終わりか……」
東条は朝から夕方までの営業を終え、客がいなくなった店内で店閉まいを進めていた。そんな時である。
「やってるかい」
閉店ギリギリに一人の客がやってくる。客の男は顎鬚とサングラス、それにプロレスラーのような精強な身体つきをしていた。正直カタギには見えない風貌だった。
「もう今日は閉店です」
「俺の目的は雑貨ではなくてお前の爺さんだ」
男は閉店であるにも関わらず、興味深げに店の中で視線を漂わせる。
「変わらないな、ここも」
「以前に来たことが?」
「五年前な。昔の話さ」
「爺さんの知り合いなら聞いていないのか?」
「何を?」
「爺さんは亡くなったんだ」
東条は悲しみの感情を含んだ声でそう告げると、男は俯きながら、「そうか……」と答えた。
「なら今の店主は坊ちゃん、お前さんかい?」
「ああ」
「爺さんの裏の稼業については聞いているか?」
「…………」
男の質問に何と答えるべきか、またこの男が何者なのかを東条は考える。
「そう警戒するな。俺は影山。爺さんの武器商人の弟子で、今はこんなこともやっている」
影山が一枚の名刺を手渡す。そこには影山民間軍事会社の代表取締役社長と記されていた。
「民間軍事会社?」
「現代の傭兵だ。中東が主な仕事場だが、先進国で武器のインストラクターや、護衛をしたりもする。今日も日本で護衛の仕事を終えた帰りに寄ったのさ」
「その傭兵さんが爺さんの弟子だったのは本当なのか?」
「本当さ。爺さんは孤児だった俺に商売のやり方を教えてくれたし、戦場で生き抜くコツなんかも教えてくれた」
「……爺さんがあんたを武器商人にしたのか?」
「武器商人になったのは自分の意志だ。本当は俺を武器商人なんかにしたくなかったらしいんだが、無理を言って頼み込んだんだ。良い人だったぜ、あの人は。血のつながりのない俺のために大学を卒業できるだけの費用を用意してくれていたんだぜ。結局、俺は大学にいかず、こんなヤクザなビジネスをしているがね」
影山の言葉には感謝の気持ちが溢れていた。その感情が東条にも伝わり、いつの間にか影山を信頼するようになっていた。
「爺さんはどんな武器商人だったんだ?」
「現代の武器商人はコーヒー片手にPCで発注するだけの奴がほとんどだが、爺さんは戦場を歩いて営業するタイプの武器商人だったな。ミサイルが降り注ぎ、銃弾が飛び交う戦場で、部隊に直接武器を販売していた。そのせいか爺さんに助けられた兵士の話を聞いたりもするぜ」
影山はそれからも東条の祖父について知っていることを語る。それは子供が自分のお気に入りの玩具を自慢するように無邪気であった。
「とまぁ、俺の知っている爺さんの話はこんなもんだな」
「ありがとう。参考になった」
「参考か……そういえば坊ちゃんは武器商人にならないのかい?」
「俺は……」
「いや、すでになっているのか?」
「なぜそう思うんだ?」
「目さ。坊ちゃんは人を殺した経験がある奴特有の目をしているからな。どこで殺したんだ? 中東か? それとも日本か?」
「フランス……」
「へぇ~、坊ちゃんは見かけによらず悪だねぇ。強盗でもしたのかい?」
「するはずないだろ。それに俺は殺したくて殺したわけじゃない。正当防衛だ」
東条は盗賊に襲われて返り討ちにするために拳銃を使ったと話す。もちろん過去にタイムスリップした話は除いてだ。
「坊ちゃんは今後武器商人として生きていくつもりかい?」
「当分はな。俺にはやらなければならないことがあるんだ」
ジャンヌと可憐を救うまでは武器商人として生きるのを辞めるつもりはなかった。その決意は影山にも伝わったのか、彼の表情が真剣なモノへと変わる。
「坊ちゃんは武器を扱えるのかい?」
「引き金を引くくらいならな。他にも弩ならネットで調べて使い方を勉強したから、かなり扱えるぞ」
「弩って、坊ちゃんは中世で武器商人でもするつもりかぁ。そんな知識、現代だと役に立たねぇよ」
影山はふぅと息を漏らすと、懐から拳銃を取り出す。
「俺たち武器商人は武器について誰よりも詳しくないといけない。それは知識があるだけでなく、扱えないと駄目だ」
「商品を扱えない商人は頼りないもんな」
「それに爺さんと同じ戦場を歩く武器商人を目指すなら、自分の身は自分で守れないといけない。そこで提案だ。俺が坊ちゃんに武器の使い方を教えてやる」
「願ってもない提案だが、あんたに何の得があるんだ?」
「爺さんには世話になったからな。孫の坊ちゃんに、恩返しみたいなもんだ。その代わり俺は手を抜かないからな。ビシバシとスパルタ教育するから、覚悟しろよ」
「願ってもない。俺には時間の余裕がないんだ」
東条はシノン城に入場するまでに、フランスへ戻らなければならない。そのためには優しく指導されていたのでは到底間に合わない。東条は雑貨商店を閉店し、看板を垂らす。そこには休業中とだけ記されていた。
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