第143話 絶対不敗の決闘者 -10

     ◆



(……ああ、そうだった)


 死への恐怖という共通点で思い出したのは、自身の能力の発現の時。

 拳一つで何でも出来ると思っていたあの頃。

 あの能力を発現したのは、自分の力で戦わずに簡単に殺せる世界が許せなかったからだ。

 タイマンに持っていく為に、遠距離攻撃を無効化という能力を手に入れたのだろう。


(……だけど、タイマン張る時に相手にダメージを返すって能力まであったのは完全に予想外だったな……きっと死にたくない、ってのが出たんだな)


 相手にダメージを反射する。

 それは彼にとっては予想外で、不本意だった。

 自分で戦わずに相手の攻撃を反射する。

 それは自分が嫌った――卑怯なことだった。

 だから彼はずっと思っていた。

 何をしても、ずっと卑怯な能力があるからこその勝利なのだ。

 そんなものは勝利ではない。


 ――『絶対不勝の卑怯者Not Winner』なのだ、と。


 他者から『絶対不敗の決闘者Not Loser』と呼ばれようと、ずっと自分ではそう思っていた。

 勝利も敗北も無い。

 周りが勝ったと思っても、彼自身が勝ったと思っていない。

 そして敗北したことは事実としてない。

 しかしながらそんな彼は今、ようやくどちらかに白黒つけられる状況になっていた。

 ――敗北の方に。


(……負ける、のか?)


 このまま海の底に沈めば息が出来なくなって彼は死ぬだろう。

 それは紛れもなく敗北だ。

 海という自然の力を使って、こちらを倒してきた。

 あの少年少女の勝利と言っていいだろう。


(これは……卑怯とは言えねえな……)


 彼は認めていた。

 ダメージを負わずに自分を倒すにはこの方法しかないと。

 セバスチャンがダメージを負わせ、フランシスカが情報を用いて攪乱し、黒髪の少年と蒼髪の少女が囮となってエーデルを誘き出す。

 海水という傷口に文字通り塩を塗る行為で力を奪う。

 こうして頭が冷えれば、彼らがどれだけ頭を使ってこの戦いに臨んで来たのかが分かる。

 そんな彼らを、どこが卑怯と言えるだろうか。

 ――少なくともエーデルにはそうは思えなかった。


(ある意味これも遠距離攻撃だが……でも俺が認めないのは『意志のない攻撃』だ。これは確実に『意志』が入っている攻撃だ。だったらあいつらのやり方を認めないわけには行かないよな……)


 タイマン――一対一ではないが、相手は全力でこちらを倒しに来ている。

 その結果、読めなかった自分がこうして海に沈んで酸素を奪われている。

 相手を賞賛するべきだ。

 拓斗と遥、フランシスカを非難するいわれはない。

 エーデルはそこに怒りはない。

 身体と共に意識も沈んできた彼は、穏やかな顔さえ浮かべていた。



 ――だが。





(意志を持って俺を殺しに来ていないてめえだけは駄目だ――!!!)

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