第144話 絶対不敗の決闘者 -11
◆
――遥が拓斗ごとエーデルを海に突き落としてから1分後。
「……よし、そろそろかしら」
そう口にすると、フランシスカは上空へ飛び上がった。
その手には縄が握られていた。
その先に付いているのは――
「ぷはっ!」
海から飛び出してきたのは、拓斗と遥だった。遥の方には縄の一端を足に結び付けられている。そんな彼女が拓斗を引っ張り上げている構図だ。
そのまま浮遊し、港へと戻りながらフランシスカは下にぶら下がっている二人にじとっとした視線を向ける。
「というかあんた達、海中でも息出来たんでしょ? だったら『ぷはっ!』ってやる必要は無いんじゃないの?」
「いや、感覚的にどうしても言っちゃうわよ。やってみれば分かるわよ」
「やってみる?」
「遠慮するわ。服が濡れるのは嫌だし、それにそもそも拓斗とパートナーになっていないから出来ないしね。なんならパートナーになる、拓斗?」
「駄目だって言ったでしょ! というか拓斗も何を言っているのよ!?」
「あ、ごめん。……ごめん?」
何故遥が声を荒げたのかについて判っていない様子に、二人は「……はあ」と溜め息を吐く。
同時に地面が見えてきたので、フランシスカは二人を降ろした。
「ふう……ようやく終わったって感じがするよ」
「そうね。やっぱり地面っていいわね」
拓斗の呟きに遥が微笑みを見せる。
「あのままずっと掴まれていたらどうしようかと思ったけど、上手い具合に離してくれたからね」
「それは多分セバスチャンのおかげね」
フランシスカが胸を張る。
「セバスチャンの負わせた傷はそう簡単には治らないわ。だから海の中に入れたら力が入らなくなると思ったのよ」
「文字通り、傷口に塩を塗り込んだ――染みこませた、って感じか」
「日本ではそう言うの? まあ、あなた達にダメージが入らないかは気になっていたけど、それはなかったようね」
海に落とすということは傷口に追撃を加えるということでもある。それを攻撃とみなされれば拓斗か遥にダメージが来るはずだが、二人がそんな様子を全く見せていないことからも分かる通り、エーデルからはそう認識されなかったようだ。
その点、ホッと安心しながら、フランシスカは拓斗と遥の二人を見る。
びしょ濡れ以外に傷を負っているような様子は見られない。
全てフランシスカが思い描いた通りになった。
「上手くいったわね。全て私のプラン通りよ!」
「ああ。上手く行き過ぎてちょっと怖いな」
「でも、それは全部師匠と一緒に立てた計画が完璧だったからでしょう。そこは準備の良さと読みの良さ、そして――セバスチャンの貢献も認めないとね」
遥の言う通り、セバスチャンが色々と活路を見出し、相手の隙を作ってくれたのも彼が文字通り身体を張って傷つけてくれたからだ。きっとそれが無かったら相手はここまで作戦通りには動いてくれなかっただろう。
「これで胸を張ってセバスチャンの所に行けるわね、ねえ師匠?」
「そうね。これからセバスチャンに報告しなきゃね。『あんたのおかげで勝ったわよ』ってね。そうしたらセバスチャン、どんな顔をするかしら」
「きっと『じゃあ私のおかげならお嬢様の足を舐めても良いということですね』とか変なことを言いだしてフランシスカを困らせるんじゃないか?」
「あはは。それはきっとあるわね」
「ちょっと! セバスチャンが常にそんなことを言っているような変態みたいな言い方……まあ、合っているわね」
「だったら足を海水に付けておけば、師匠?」
「それもいいわね。でもソムリエみたいに批評されそうで怖いわ」
おどけて身震いをしたら、拓斗と遥の二人も笑顔を見せた。
そう。
もう終わったのだ。
あのエーデル・グラスパーを倒したのだ。
(後はセバスチャンの意識が戻るのを待って……)
――と、三人が和やかな雰囲気で軽口を叩き合っていた、その時。
「……!?」
彼女達がいる辺り一帯に、とある変化が生じた。
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