第113話 修行・修練・習得 -13
「『スピリ』の成り損ない……?」
「ええ。私は『スピリ』として訓練を受けていましたがなれなかった、所謂落ちこぼれなのですよ」
セバスチャンは笑顔でそう語る。
「お嬢様や剣崎さんと直接面識はないですが、同じような訓練を一通り受けてきました。だからあれだけ体術が出来たのですよ」
『スピリ』としての訓練。
それがどのようなものなのかは分からないが、遥も体さばきは物凄いものがあった。セバスチャンも凄かったが、そのような共通点があったということだったのか。
「自慢ではないですが体術も学術も、同期の中ではトップでした。だけど、私はどうしても『スピリ』にはなれなかったのです。……何故だか分かりますか?」
『スピリ』になる条件。
以前に遥から聞いたことがある。
「――『空間を切り離す能力』が無かったんだな」
「ええ、その通りです。私にはどうしてもあの能力が身に付かなかったんですよ」
空間を切り離す能力。
どのような理屈か分からないが、スピリはこの能力が使える。
「……本当に、どうして、身に付かなかったんでしょうね……?」
セバスチャンは少しトーンを落とす。
「悔しかったのか?」
「ええ。それはもう。青春の全てを捧げてきましたからね。……まあ、だからこの年まで諦めきれなかったのですよ」
素直に答えたことに拓斗は驚きを隠せなかった。笑顔でその部分ははぐらかすであろうと予想していたのだが、そのような回答をしてきたということは、本心から悔しかったのだろう。
「だからもう無理だと言われた時に少々荒れましてね……まあ、それはいいでしょう」
「その話、聞きたいけどな」
「ふふ。それはまた今度ということにしましょう。――さて、話を戻しましょうか」
その言葉で拓斗の意識も戻る。
――そうだ。壁に追い詰められたままだった。
「私はこのように、普通の人間ではありません。だからお嬢様の――『スピリ』のパートナーとして生きて来られたのです。ですが貴方は普通の人間だったと自分で言っていました。私の予想を遥かに上回ることを行ったのに、です。……これで分かりましたか? 私が貴方に『何者か?』と問い合わせた理由が」
改めて言われて分かる、拓斗の異様さ。
更なる事実を、セバスチャンは突きつける。
「それと、戦闘訓練がある人間が戦場で恐れを抱かないのは分かると思いますが――貴方は普通の人間だったのに、躊躇なく戦場に出ている」
「それは……」
「木藤君。貴方は昨日の――あのピエロとの戦いを覚えていますか?」
ピエロ。
文字通り道化師の仮面を被った敵。
「……覚えているに決まっているだろう。手も足も出ない程にボコボコにされたんだからな」
「そうです。ボコボコにされていました」
ですが、とセバスチャンの眉間に皺が寄る。
「その時貴方は私が割って入るまでに、泣き喚く様子や悲鳴すら上げていなかったのですよ。戦闘訓練も受けていない貴方が」
「いやいや、それはただ単に悲鳴や泣き言を口にする前にボコボコにされて出来なかっただけだって」
「剣崎さんの元へ向かうことに頭がいっぱいではなかったのですか?」
「……っ」
「図星の様ですね」
ふっ、と息を漏らして小さく首を横に振る。
「本当に異常ですよ、貴方。普通の人間なら自分のことしか考えません。どこの物語の主人公ですか?」
「……おいおい。何を言っているんだよ」
拓斗は、はは、と笑う。
「僕はただ単に遥の力になりたい、って思っただけなのと、『盾の種』を植えられて丈夫な盾になったから――危険はほとんどないからこそ、戦場に出ているんだよ。僕の力でも何でもないって」
盾だから。
契約しているから。
「それに僕は何もしていないよ。『魂鬼』だって遥が倒している訳だし……本当に、凄いのは……遥だよ」
言っていて気が付いた。
拓斗は何もしていない。
何も持っていない。
セバスチャンのような戦闘センスを欠片も持っていない。
大切な所で遥のサポートすら出来ていない。
本当にただのお荷物だ。
「僕が『魂鬼』との戦いにいるのは、全部遥が凄いからだよ。僕が役に立っているなんて思わせられるんだから……そうだよ」
あはは、と拓斗は自嘲する。
「さっき『何者か?』って聞いたじゃないか。あれは僕の成果じゃない。遥の成果だよ。僕の功績じゃない。僕は……無力なんだ」
そう。
今の今まで一緒に戦ってきたつもりでいた。
しかしそれは全て、遥のおかげだったのだ。
「だから僕は少しでも遥の力になりたくて――」
「……分かりました」
パン、と。
拓斗の眼前でセバスチャンは手を叩く。
突然の行動に目を丸くしていると、彼は短く息を吐いて拓斗から一歩離れる。
「ようやく分かりましたよ。貴方が何者か、っていうのが。少しですがね」
「分かった?」
「ええ。貴方が強くなる為には、精神的な指摘をしなければならないようですね」
「精神的な……?」
それ以前に肉体的な方が――と思った拓斗に、セバスチャンは人差し指と共にある事実を突きつける。
「貴方は――パートナーを信頼しすぎていますね」
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