第69話 悲獄の子守唄 -11
◆原木
原木は唄う。
彼女の歌は凶器だ。
この能力は幼い頃からあったわけではない。
かといって、好きだったわけではない。
彼女が歌い始めたのは、ごく最近。
そこで気が付いた。
――気が付かされた。
彼女の歌声は、誰にも聞かせない。
聞かせることが出来ない。
――そのはずだったのに。
(何で全然攻撃が通っていないのよ……?)
視界の先にある二人の姿から分かるが、先程から殺意を込めて攻撃を放っているのに、彼女の攻撃を全く通していない。無意識に手加減をしているのかと思って近くのビルに攻撃を加えてみたが、想定した通りの威力を発揮して倒壊まで至っていた。
その攻撃からも分かる通り彼女の歌には、出力を調整すれば物理的な破壊力も備わっていた。
目に見えない物理的な攻撃。
そんな強力な攻めであったにも関わらず、彼らは平気な顔をして会話をしているのだ。
その会話の内容は断片的すら聞こえていない。
まるで空間を遮断しているかのように――
(……どうみてもあの男の子がその理由ね)
先の攻撃をした際に、少年の方が手を伸ばしていたのが目に入った。彼が何かをしていることは間違いないだろう。そうでなければ、大剣を振るっているあの少女がどうして少年を何度も連れてきているのか説明が付かない。
つまり、少年をどうにかしなくてはいけないということだ。
(きっと少年が防御として前に出て、詰められる距離まで来るのね。そこで少女が仕留めに出てくる――)
攻撃と防御がはっきりとしているからこそ読める選択肢。
だから彼女はじっと少年の方を注視した。
攻撃を受けながらも少年が前に出る。
ならばタイミングを見計らって、相手の意表を付く攻撃をすればいい。
じっと見つめながら、今までと同じように発声して攻撃を続ける。
まるで何も気が付かずに、ただ攻撃しているかのように。
――しかしながら次の瞬間。
「……っ!? ♪――」
彼女は驚き声を上げそうになり、一瞬だけ攻撃を途切れさせてしまった。
それは彼らが予想外の行動をしたからだった。
「――」
声も上げずに物凄い勢いで、少女がこちらに向かって来ていた。
しかも――単独で。
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