第68話 悲獄の子守唄 -10
◆拓斗・遥
静止した空間でこちらに対峙している存在の名は、原木御子。
目に見える武器を持っていないこと、それなのに攻撃が飛んできたことから、彼女が『地獄の子守唄』であることは間違いないだろう。
白夜の関係者を何人も殺した張本人。
二人が探していた人物でもある。
目的は達成された。
ならば――
「遥、今がチャンスだ! 早く原木さんをこれから――」
そこで拓斗は言葉を止める。
いや、止めてしまっていた。
気が付いたのだ。
(これから……どうするんだ……?)
今までは『魂鬼』相手だったから、ただ斬れば――魂を解放すれば良いだけだった。
しかし、今回の相手は人間だ。
斬れば死ぬ。殺してしまうこととなる。
ならば拘束するのか?
どうやって?
相手は武器を持っていない。
武器は、その声。
ならば喉を潰すか?
それこそ方法はどうやって行うのか?
そのように悩んでいる間に、
ガキイィィン!
再び金属音が鳴り響く。実際の盾ではなく、また相手も声での攻撃なのでそのような金属音が響くこと自体がおかしいことではあるが、相手の攻撃を分かるようにしたいという意思があったから付与されたものなのかもしれない。
それよりも、音がしたということは、再び攻撃を始めたということ。
原木の方はこちらを殺しにかかってきている。姿を見られて撤退をする気はないようだ。先程は察することが出来たが、遥が気が付かなかったように偶然の産物に過ぎない可能性が高い。そんな状態で彼女から背を向けるのは、こちらとしてもリスクが高い。
ならば、立ち向かうしかない。
「遥。戦おう」
「え……っ?」
そこで拓斗は違和を覚えた。どことなく心ここに非ず、と言った様子だ。しかし何故かを考えている暇はない。敵はすぐそこに居るのだ。
「原木さんからの攻撃は僕が受け続ける。だからその隙に何とかあの人を気絶させて」
「気絶って……」
「出来るでしょ?」
「……」
当然――という答えが返ってくるものだと思っていたので、拓斗は拍子抜けした。彼女は沈み込んだ表情のままだ。
「……本当にどうしたの? さっきからボーっとしてて」
「あ、うん。ごめん」
「何かあったの?」
心配そうに眉を潜める拓斗に遥はちらと視線を向けると、小さく首を横に振って、自身の顔を二度両の掌で挟み込む様に叩いた。
「……ごめん。少し気が散っていたわ。今からしっかりするわ」
彼女は拓斗の問いには答えず、鋭く息を吐いて「よし」と前を向いた。
「原木さんを止めるのね。了解したわ。さあ、行くわよ」
「ちょ、ちょっと待て。どうやってするんだ?」
前のめりになる遥を静止する。その間にも後ろではひっきりなしに攻撃を防ぐ音が響いている。遠目だが攻撃している原木は真っ直ぐにこちらを見てただ唄っているようにしか見えず、疲労の様子が見当たらない。つまりこのまま持久戦に持ち込んだ所で何とも出来ない所か、変わらないペースで攻撃されるのでこちらが足止めされてしまうことになってしまうだけだ。
「大丈夫。そこは考えがある」
ある胸を張った後、彼女は拓斗に耳打ちをした。
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