第10話 鬼と云われる存在とその狩り手 -05

  ◆



 昨晩の話の続き。


「……あのさ、君に言わなくちゃいけないことがあるんだ」


 別の部屋に移った後、椅子に腰掛けながら遥はそう切り出す。


「何だ? 謝罪ならいらないぞ?」

「助けてあげたのに謝罪なんかするわけないじゃない」

「む……」


 確かにそうか、と人形の姿の拓斗は唸る。


「じゃあ何だ?」

「あのさ、私がこう言ったこと覚えている? えっと、確か……『後で面倒なことになるけど、今、面倒になる方が嫌だから』かな?」

「ああ、確かにそんなことを言っていたね」

「んで、その『後で面倒なことになる』の『面倒』について、君に話さなくてはいけないことがあるの」


 本当に面倒なんだけどね、と強調する。


「私は、お前を盾にした。あの時、実は『契約』をしていたの」

「契約?」

「そう。そうすれば、ただの肉体が文字通り『盾』になり、強度や使い易さが増す。それが私が望んだ契約。そしてその契約によってお前と私は、主従関係ならず、いわば『主盾関係しゅじゅんかんけい』になったんだ」

「しゅ、主盾関係? それって……」

「……ただの洒落。言ってみたかっただけ」

「誰が上手いことを言えと! 座布団1枚!」

「少ない……いや、まぁ要するに、私とお前の間に一時的に主従関係が結ばれた、ということなんだ」

「え……ってことは、僕が……」

「そう。お前は私の下僕」


 遥は髪を掻き上げる。


「ただしそれは戦いの中でのこと。だから今、お前は私の下僕じゃない」

「そっか。いやあ、流石に一方的に契約やら何やら後から言われても――」

「……だけど」


 そこで遥は言葉を濁す。


「一方的な主従関係は、その……やっぱり良くないってことで、だからお前にも……同様の権利があるんだ」

「え……?」


 拓斗が驚きの声を上げる。


「それって、まさか……」

「そう。だ、だから今は……お前が私の主人。そして、私が……げ、下僕となるんだ」


 遥は、顔を真っ赤にして視線を逸らす。



「だ、だから私はお前の命令を1つ、叶えなきゃいけないんだ……どんなものでも」



「……え?」


 あまりにも突拍子のない話に、拓斗は呆然と言葉を零す。


「……どんなものでも?」

「……」


 下を向きながら、無言でこくりと頷く遥。耳まで真っ赤である。


(……どうしよう?)


 遥はとても可愛い女の子で、スタイルもいい。そんな女の子に、命令できる。

 しかも『どんなものでも』。

 あまりにも破格の条件。


「……決めたよ。命令」


 拓斗は真っ直ぐに遥に向きあう。健全な高校2年生だったらほぼ必ず選ぶであろう答えは、拓斗の頭の中に浮かんでいた。

 だが、彼はそれを選択しなかった。



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