第4話 猫として生きる
僕はポーン。丸いものが大好きな、ただの猫である。
ただの猫と言っているが、本当にただの猫である。いい加減、僕も誰かになりきってないで自分の生き方を探さねばならない。いつまでも誰かのモノマネをしているわけにはいかないのだ。
猫たるもの、どんなときでも自立していなければならない。いきなり家に押しかけても温かく出迎えてくれる人、美味しいご飯を惜しみなくくれる親切な人、ふかふかの寝床を用意して待ってくれている優しい人。どんなに大好きな人たちがいようとも、どんなにお気に入りの場所があろうとも、僕は決して夜の見回りを怠ってはいけないのだ。
いつだったか、大きな橋の近くでキラキラ光る丸い石を見つけたことがある。僕は思わず夢中で走った。丸いものはなんとしても持ち帰ると心に決めているのだ。
橋のたもとで丸い石を捕まえたその瞬間、偶然にも白いひげの愛弟子に会った。愛弟子は、見回りをする僕を見つけるやいなや嬉しそうに駆け寄ってきた。師匠冥利につきるというものである。
愛弟子は何やら僕にお願いがあるようだった。彼にしては珍しい。初めてのことではないかとすら思う。そんな愛弟子の願い事とあらば、師匠たるもの、叶えないわけにはいかないではないか。僕は快く引き受けた。
白いひげの愛弟子はよほど嬉しかったのか、なんと目に涙を浮かべている。情緒不安定なのではないかと心配になるほどだ。
「元気で、いるんじゃよ。いずれまた……」
愛弟子はそう言いかけたものの、途中で言葉を切って俯いた。すると今度は目に涙を溜めたまま、ニッコリ笑顔を見せた。
「今夜は月が綺麗じゃの。満月になる日も近いじゃろう。元気でいるんじゃよ、ポーン。いずれまた……会えるとも――」
まるで今生の別れを告げるかの如く名残惜しそうな顔をしたあと、愛弟子はもと来た方へ帰って行った。
何か落ち込むことでもあったのだろうか。僕は急に心配になってしまった。いつも弱音を吐かない愛弟子のことだ。たまには息抜きをさせてあげなければならない。師匠たるもの、愛弟子のことは常に気にかけているのだ。
今度会ったときにでも、僕のあのお気に入りの石をあげようか。きっと愛弟子も喜ぶに違いない。僕が丸いものをあげるたび、愛弟子は嬉しそうにしていたっけ。僕の小さな口で持ち運ぶのはなかなか骨が折れるけれど、これも可愛い愛弟子のためである。
僕は愛弟子に頼まれた贈り物を届けるため、紫の川にかかる大きな橋の真ん中へ向かった。
満月のてまえの月に照らされて、僕の口元の丸い石がキラッと光った、気がした。
今夜はなんだかやけに月が綺麗だ。きっともうすぐ満月に違いない。明るい夜はいてもたってもいられないのだ。
なぜって僕は、猫なのだから――。
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