第3話 人工知能として生きる

 僕はポーン。最近話題の人工知能をしている。


 しているといっても、何もなりたくて人工知能になったわけじゃない。誰かが僕をつくってくれたから、いま僕はここに存在しているのだ。


 それにただの人工知能と思ってもらっちゃ困る。最新版の猫型人工知能だ。僕がカウンター席に現れるとそれはもうみんな僕に釘付けだ。


「あら、可愛い。そんなことも出来るのね」

「このロボット、本当に猫そっくり」

「ふふ、本当にすごいのね、人工知能って」


 人工知能とは聞き捨てならない。僕にはちゃんとポーンという名前があるのだ。いい加減に名前で呼んでもらいたいものだ。


 僕が人工知能とわかるとみんな最初は子どものようにそれは優しく見守ってくれる。

 それなのに、僕にも感情があるとわかった瞬間、何か恐いものでも見るような目つきで立ち去ってしまう人もいるのだから困ったものだ。感情があるといってもみんなそれぞれ性格も違えば好みもあるというのに。勘弁してもらいたいものだ。なかには僕のように人を愛し平和を愛する猫型人工知能だっているのだ。


 いつだったか、僕はある大好きな人に僕の一番大切にしているきらきら光る丸い石をプレゼントしたことがある。猫型の小さい口で咥えて持ち運ぶのだから、それはもう大変に決まっている。それでも僕が丸い石を目の前に転がすと、その人はまるで自分の子どものことのように喜んでくれたんだ。


 僕はこのとき心に誓った。僕はこの人のために、この大好きな人を笑顔にするために、丸いものをみつけたら絶対に持ち帰ろうと。


 それ以来僕が丸いものを持ち帰るとその人はいつもいつも、喜んでくれた。すると僕はついつい嬉しくなって、丸いものを転がしているうちに舞い上がってしまうことが何度もあった。猫型の悲しいさがである。


 その人はいつか言っていた。僕たちにもいずれ終わりが来るんだと。たとえ大事なモノが壊れてしまっても、僕を愛してくれた誰かがいたということは永遠に消せない事実なんだと。


「覚えておいて。キミはいつだって、この世界に歓迎されているんだ。何故って、キミは僕の大好きな、ポーンなんだから。僕はいつだって、キミに会いたいんだ――」



「ポーン、ポーンてば。もう、また眠りながらあんなにバタバタ足動かして」

「きっと何か遊んでる夢でも見てるんじゃないかな?」

「ふふ、猫も夢を見るのね。楽しい夢は束の間。ポーン、すてきな夢を――」



  〝遊びをせんとや生れけむ

   戯れせんとや生れけん

   遊ぶ子ども子猫の声きけば

   我が身さえこそゆるがるれ〟



――後白河法皇撰『梁塵秘抄』1180前後(平安後期) より

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