チャプター2 気だるさが私を支配する世界
どうやって、その後校長室にたどり着いたかは、全然覚えていない。
挨拶もそうだ。
全員が並ぶ、全てが飾られた能面の様にこっちを見ているのだ。ありえない。
かぼちゃだと思おうとしてもそんな魔法は小さい頃から私には通じない。
だって――だって――どう見たって”ヒト”じゃん!
真っ白になりすぎて、あばばばばと口をもごもご開きながら、何かひとつ言ったのは覚えている。
「いやいやいやいや、私そういう見世物じゃないんデッ!!」
ただそう一言言っただけで、周りから静寂と密やかな笑い声か聞こえてきたのだけは冷や汗と共に感じる記憶だ。
取り合ず、隣の席の女の子が「よろしくね。」と優しく声をかけてくれたところから記憶が始まってる。
もちろん、返事は返さなかったし、返せなかった。
そして結局、昼になり。その昼のお相手にする友人を見つけることができなかった。
いや、自分があの大勢の群れの中に入ることができず、逃げだすかのように教室をでてしまった野が悪いのだが。
「自分の!自分の!意気地なし!」
これでは前の学校と一緒だ――そう思った。
とぼとぼと、階段を下り、中庭の入口前の掲示板に差し掛かる。
空はきれいで、まるで自分の悩みなど
ふぅ……とため息をついたところに。
ひときわ輝くイラストが、一枚と小さなパンフレットが置いてあった。
そこに描かれていた耽美なる男の楽園。そう、それは。
『BL部』
その張り紙だった。
まあ彼女たちが好きなタイプの男性同士が、にゃんにゃんしていればよいわけで。そこに壮絶な萌えを見出す世界があるのだろう。
校門×裏門とかいうのもまあありなものだから。我ながら想像したものが、おゲレツである。
人によっては吐き気を催す邪悪になりえる場合もあるかもしれない。
「ゲレツ―。そうよそうよ。」
「ゲレツよねー。」
ギクッと、後ろの方を通り過ぎる女子のメンツを見ながらも、自分はドキドキしながらはぁと息を吐いた。
投稿初日から汗まみれである。
もういやだ。もういやだ。と、校門の壁にすがりたい気分になっている
嫌われるかもしれない――そんなの、自分の勝手な妄想だ。
妄想なのは――わかってる。
自分はその部活のパンフを引き裂いてごみ箱に捨てた。
中央の庭の中にさらに円を描くように囲んだ庭の中、その中央にある百合庭園。
自分はふらふらと、弁当も食べずにそこにたどり着いていた。
部活の勧誘や、騒音や人込みを避けるとどうしてもこう、静かな場所に出てしまうものだ。
丸い囲いの中には、一つの彫像が一体立っている。この学校の創立者だろうか。
それにはこう刻まれていた
「それでも 高みを めざすというのなら――」
いつもここで気になる。なぜ「めざせ」ではなくて「めざすのなら」なんだろうか。
作者何を考えてこれを書いたのだろうか、自分は国語のテストなんてあてずっぽうな方だが。
この「高みを目指すのなら」の分にひっかりを感じていた。
「なんでならなんだ?まるで、その前があるみたいじゃないか。」
「そこに気づくとはな。」
はっと、後ろを振り向いた。
紅いスカートの……黒いベルトの目立つ、制服の世界には異様に映る存在……彼女だ。
「この像は、創立者ではないぞ。この学校が立つ前からあるものじゃて。」
「ほぇ……そうなんですねぇ。」
まるで天気模様について、頷くかのようなまぬけな声で応答した。
しようとしたのではなく、なんとなく異様な彼女と目を合わせられず。これはほかの相手でもそうなのだが。
なるべく他のところを見ながら、何と無くでその場を誤魔化してスルーする自分の生きる術だった。
「凡夫、そなた、昼を共にする友は居らぬのか?」
何故私はこんなところで、自分の交われないコンプレックスを指摘されなければならないのだろうか。
空は青く、小鳥は何も知らぬまま、さえずっているというのに……。
それが、私に対する試練であり、課せられた天命だというのだろうか。
だとすれば、早く終われ、終われ終われ終われ!!
「……いえ。」
執念の様に唱えられた呪詛から発せられた言葉は、何とも情けない二言だった。
「ふむ……。」
彼女が何処から取り出したのか、黒い扇を開いた。
程よい香りが、立ち込め、仰ぐたびにその香りが鼻の中をスンとさせた。
「よいぞ。友人になっても。」
「あ…」
驚きのあまり、宙に浮いていた瞳が彼女へと移る。瞳と瞳があった。
「なんじゃ?妾がそなたの第一の友人になってやろうというのに……。」
怪訝そうな瞳で、扇の中の下からその双眸をのぞかせた。
「い、いいの…?」
「誰もが友人を欲っするもの。そうじゃろう?」
妾ちゃんはかわいい。
どれくらいかわいいかっていうと、天に昇るくらい。
○○ちゃんのかわいい妾ちゃん 春野 一輝 @harukazu
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