ニンゲンを食べる話

灰色平行線

ニンゲンを食べる話

「この国はどこにあるのですか」

 ある旅人は道で出会った男にそう聞いた。

 すると男はこう言った。

「あの国に行くのは止めた方がいい。あの国ではニンゲンを食べるらしいからな」

「ほう、ニンゲンを」 

 旅人は男の話に興味をもった。


「あの国ではレストランでオススメを聞くとニンゲンですと返ってくるんだと。しかも笑顔でだ。俺達が牛や豚を笑顔で食べるのと同じように奴らはニンゲンを笑顔で食べるんだ。だからあの国には外からは滅多に人が来ない。仮に来たとしてもすぐに国から逃げ出すさ。ニンゲンなんて食べたくないからな」


 男の話に興味を持った旅人は、本当にニンゲンを食べるのか気になって、国へ向かう歩みを早めた。旅人は良くも悪くも好奇心旺盛だった。


「いらっしゃいませ。何にいたしましょうか?」

 数日後、国に着いた旅人はまずレストランに立ち寄った。

「おすすめは何ですか?」

「はい。当店のオススメはニンゲンの塩ゆでとなっております」

 旅人の質問に店員は笑顔でそう答えた。

「それじゃあ、それをください」

「かしこまりました」


 数分後、旅人の前には塩ゆでにされたインゲン豆が置いてあった。

「これがニンゲンですか?」

「はい、この国の豊かな土で育ったニンゲンをシンプルに塩ゆでにしたものです」

 店員は、笑顔でそう答えた。


 次の日、旅人は国を出て、次の国を目指した。その途中、1人の女に出会った。

「あの国から出てきたんですか?」

「ええ、そうですよ?」

 女の質問に旅人はそう答えた。

「不思議な国ですよね。インゲンをニンゲンと呼んでるんですから」

「貴方は知っているのですか? あの国のニンゲンの正体を」

 旅人が尋ねると、女は「もちろん」と頷いた。


「元々あの国に植物を育てるという文化はなく、野菜は他国から輸入してたんです。だけど何年も前にあの国の土の豊かさに目をつけた1人の旅人がやって来て、その国に野菜の育て方を伝えました。そしてあの国で初めて野菜が育った時、国民は旅人に聞いたんです。『この野菜はなんて名前なんだ?』と。旅人は答えました。『これはインゲンだ』と。それを当時の国民がニンゲンと聞き間違えたんでしょうね。それ以来、あの国ではニンゲンを食べると恐れられているのです」


「よく知ってますね」

「私はその旅人の子孫ですから」

「あの国の人達に『本当はインゲンだ』って教えてあげないんですか?」

 旅人がそう言うと、女は小さく笑ってこう言った。


「今更言っても、信じないでしょう。一生ニンゲンだと言い続けますよ。あの国の人達も、その周りで怯えてる人達も」

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