陰陽師 阿部晴蘭 

阿部晴蘭

第1話 一通の手紙

妖には害を与えるもの、そうでないものがいる。

私たちの周りは常に、妖ばかりだ。しかし、そんなことを想ったことがある人はなかなかいないだろう。なぜなら、妖の姿が見えるものはほぼいない。特定の人を除けば・・・。


平安の時代に安倍晴明というものがいた。晴明は、今ではほとんど耳にしない肩書を持っていた。  

「陰陽師」

今、この肩書を持つものはこの世界にたった一人しか存在しない。その人物は、安倍晴明の子孫である。名は・・・

「阿部晴蘭」

噂によると、彼女は、父が亡くなった後、阿部家を継いだ陰陽師。かつて、晴明が暮らしたと言われる屋敷で身を潜めて守っている。助けを求め、屋敷を訪れる人もいるみたいだが、いつも襖の奥から祈祷であったり、お祓いをしているらしく、姿は見せないのだとか・・・。謎が多い人物だ。


~大学内~


「おはよう!今日最低気温6度らしいね・・・。凍死しちゃうよ・・・」

マフラーに手袋、さらには耳あてまで完全防備で坂崎唯に話しかけてきたのは、日向満里奈。頬を赤く染め、唯にくっつく。

「まりまり!ちょっとだけ重いよ・・・。寒いのはわかってるから!」

「ひなってぃーは寒いの苦手だもんね。」

と、島野菜々美は微笑みながら歩く。

坂崎唯、島野菜々美は満里奈と同じ荒波ゼミの同級生。

満里奈と菜々美は同じ高校でもともと知り合いだったが、唯とは大学に入ってから仲良くなり、同じ学部ということもあり終始ずっといる仲なのだ。

「そういえばさ、今日荒波先生少し遅れるってLINEで言ってたよね?」

「前の仕事がおしてるらしいね、教授も大変だな(笑)」

荒波秀人、満里奈達のゼミの教師で、講義も面白く、ゼミ生のみんなから慕われている教師である。


~荒波研究所~


荒波秀人は、不穏な様子で一通の手紙を見ていた。

「   ま     り       な        死す   」

(一体なんなんだ・・・。日向が死ぬ?)

荒波は満里奈に伝えるべきか悩んだが、本人には伝えず、唯たちに相談することに決めた。ある情報をもとにこの手紙の真相を調べるために・・・。

講義をするために荒波は研究所を後にした。電源のつけっぱなしで怪しく光る画面にはこう調べられていた。

「阿部晴蘭 居場所」


~講義室~


講義室では、荒波ゼミ生が本を読んだり、友達同士話したり、わいわいしていた。

「おはよ~。」

荒波が入ってきた途端、満里奈と菜々美が二人でにやついていた。

実は、満里奈と菜々美は荒波のことがかなり好きであった。しかし、恋愛感情としてではなく信頼としてだ(ほんとは恋愛でもよかったが、生憎妻子持ちだ。)

今日もかわいいなぁと二人でこそこそ話している中、荒波は満里奈をみて、不安な面持ちで見ていた。それに気づいた満里奈は、ん?と先生に首をかしげたが、荒波は悟られないようににこやかに笑った。

授業が終わり、満里奈は用事があるためすぐに部屋を出て行った。

そのあと唯、菜々美もお昼ご飯を食べるために食堂に行こうとしたときに、荒波先生に引き留められた。

「相談したいことがあるんだけど、研究室に来てくれないか。」

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