Extra Phase avenger 03

 尋問が終わった。

 同じ部屋にある洗面台へ行き、そこで地に濡れた手と顔を洗う。

 鏡には返り血を浴びた少女の姿と、背後の死体が映っていた。


 死体の喉、それから頭に杭が2本ずつ、計四本突き刺さっていた。

 まるでフランケンシュタインのようなそれは、人形遣いだった。


 彼から得たのは、これまで彼女が探し求めていた情報――つまり「共同戦線が両親を殺した」という回答そのものだった。

 

 ずっと疑問を抱かずにいたが、今こうして思い返せばおかしな話だった。

 普通、事故が起きた直後にあれだけ早く、しかも血縁者でさえない人間が孤児を引き取ることができるだろうか。どうして病院がそれを看過するのだろうか。


 最初からシロガネを『オートマタ』に組み入れるために、両親を事故に見せかけて殺した。

 そう考えることだって不可能ではないし、実際にそれが真実だった。

 彼女が入院していた病院までもが、賀上重工の息がかかっていたのだ。


「『オートマタ……』」


 その響きには馴染みがある。

 ついさっき彼女が殺した男に、ずっとそう呼ばれていた。


 オートマタ計画。義体への適応能力が高い子供を集めて戦闘サイボーグとして養成し、最終的に共同戦線や賀上重工の私兵(オートマタ)とする計画だ。


 彼女がその候補として選ばれたのは、単純な個人差に拠るところだった。彼らは自身の持つパイプやコネを駆使して無数の子供の身体データを手に入れているのだ。

 彼らはビジネスとしてなら、何でもやる。


 最近ではhIE製造企業であるはずの桜木テクノロジーとまで裏で繋がっていた。

 彼らは援助を受ける代わりに、桜木テクノロジーのライバル企業であるスタイラスジャパンに対して業務妨害や工場破壊といった工作をしている。


 共同戦線はこれからオートマタを使い、より大規模な作戦や破壊工作を行う。それは激化する他組織との競争に勝つためだ。


 くだらない。と、心底そう思う。


 彼女は死体には目もくれず、鏡に映る自分の黒い前髪を見つめる。

 シオンがくれた赤いヘアピンが鈍く輝いていた。

 髪があまり長くないから、着ける意味もない。だが彼女は身につけておきたかった。


「……シオン」


 ヘアピンを握りしめ、目を閉じる。そうするといつでも、あの数日間が昨日のことのように思い出せた。

 愛おしくて、切ない記憶。少しの間、その記憶を脳内で再生する。

 それがすべてだった。結局彼女は、今でもシオンのアナログハックにかかったままなのだ。

 

 それで構わないと思う。もしシオンを誰か別の「ヒト」に置き換えたとして、彼女の中では何ら変わりはしない。

 そのことが励みになるのだとしたら。


「……よし」

 

 両頬を軽くはたき、気持ちを切り替える。

 組織を破壊し、より良い最期を迎えるにはもう少し頑張らなければいけない。

 そのためにもまずは、因縁にけりを付ける必要がある。


 つまりは両親、そしてシオンの復讐だ。

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