単槍匹馬Au pas caramades

うまぴょい



 静まり返った森の中、ぴょんと兎が跳ねた。小さく、柔らかな腹に何処から放たれたであろう矢の先が食らいつく。矢傷を負った小動物は草の上に落ちた。

「半矢だが、まあ、当てただけいいか」

「いいの?」

「ああ。いい。さ、早くとどめを刺してあげなさい」

「はい、父さま」

 弓を手にした少女は、父親らしき人物に促されて草むらをかき分けるようにして走った。彼女の足元にはひくひくと鼻を動かす獲物の姿があった。

「とどめを」

 少女は小さく頷いた。

 人を殺してはいけない。子供だって知っている道理で、倫理だ。

「そう。よくできました」

 しかし。

 人以外のものならば話は別だ。現に少女は生物を殺して褒められた。彼女は息絶えた兎を見下ろす。未発達の体に、沸々とした高揚感が駆け巡った。

「リリアンヌ」

「はい」と、自分の名を呼ばれた少女が振り向いた。

「お前は狩人だ。獲物を追い立てる、誇り高い狩人だ」

 少女は深く頷いた。

 そうだ。

 自分は狩人だ。この先、自らがどうなろうと、誇り高い存在であることに間違いはない。少女は、自分の心に深く刻み込んだ。



「何をやっているんですかっ」

 ヘッドフォンから、幸を叱責する声が鋭く響いた。彼は反射的にすみませんと謝って、それから気を取り直そうとしてゲーム機のコントローラを握り直す。

「狩人のいろはを教えて欲しいというから付き合ってあげているんですよ?」

「ただゲームで遊んでるだけじゃなかったんですね」

「そうです」と織星の自信たっぷりな声が聞こえてくる。

「そんなことより八街くん。早く痕跡を集めなおしてください」

「どうするんでしたっけ」

 画面では、幸の操作するキャラクターがぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

「さっき説明したじゃないですか! 光ってるところを調べるんですよ!」

「調べようとしてるんですけど」

「なんでジャンプし続けてるんですか? ボタン間違えてませんか?」

「あ、ホントだ」

「それでも狩人ですかっ」

 幸は今日も織星とゲームで遊んでいた。ここ最近はずっとこうだ。リビングでぎゃあぎゃあとゲームをしていてもむつみは怒らない。なぜなら、彼女は今、家にいないからだ。市役所の仕事が忙しく、朝早くに出て行って夜遅くに帰ってくる。遊んでいても見咎められることはない。

「全くもう」

 幸はヘッドセットの位置を調整しつつ、織星にあることを訊いた。

「最近、市役所の人たちが忙しいみたいですけど」

「モンスターが……ケモノがまた増えてきたみたいですよ。あっ、それで思い出した」

「何をですか」

「《十帖機関》にもケモノをどうにかしろって、うるさい人たちがいるんですよ」

 織星はぷんすかしていたが、幸は不思議に思った。《十帖機関》は猟団で、狩人の集まりだ。ケモノを退治するのが彼女らの仕事である。

「どんな人たちなんです?」

「えーと……あっ、言っちゃだめだって言われてたっけ」

「だめじゃないですか」

「だ、だめじゃないです。八街くんが神社に来たら、天満ちゃんが言っちゃうでしょうし」

「聞かなかったことにします」

 ふと幸がゲームの画面を見ると、織星の操るキャラクターが土下座のモーションをしていた。

「あっ、八街くん! あっちに手ごろなやつがいますよ!」

「あっちってどっちですか?」

「ついてきてください!」

「あのー。ぼく、明日も学校なんですけど」



 目覚ましが二度鳴って、幸はベッドから体を起こすことに成功した。夜遅くまでゲームをしていたせいか気だるくてしようがなかった。彼が何度もあくびをしているうち、机の上から声がかかった。テラリウムのカエルがげろげろと笑っていた。

「遅くまで起きていたら体に良くないよ、ご主人さま。成長期なんだから、背を伸ばしたいならもっと成長ホルモンの分泌をうながさないといけない。その場合、レム睡眠よりノンレム睡眠の方が」

 鬼無里カエルが何か言っていたが、寝起きの幸の頭にはまるで入ってこなかった。彼は寝間着のままリビングに行く。テーブルの上には作り置きの朝食があった。忙しいむつみだが、食事の支度だけは欠かさない。その心遣いを幸は嬉しく思うも、彼女がいないことに妙な寂しさを感じていた。その一方で天敵と出くわさなくなったことから鬼無里は喜んでいた。

「気をつけていってらっしゃい、ご主人さま」

「鬼無里さんも。勝手に外へ出ないでくださいね」

「心配いらない。今の私にとってはここが全てだからね」

 幸は朝食を済ませて、戸締りを確認して家を出る。朝の空気はまだ湿り気を帯びていて蒸し暑い。夏の残り香を肌で受けながら、彼は制服のボタンを一つ外した。

 二学期に入ってから監視むつみの目がなくなったのもあり、自堕落な生活を送っている。その最たるものが織星とのゲームだ。幸は夜遅くまで遊ぶたびに自省するのだが、ざっくり言って友達のいない織星は彼を逃がさなかった。自宅にまで押しかけられるよりはマシだと、幸は諦めかけている。

「あら、おはよう八街くん」

 登校中の幸に声をかけたのは同学年の鵤藤である。彼女は溌溂とした笑みを浮かべていた。

「おはよう、バックドラフトトリートメントインディちゃん」

「それもしかして私のことかしら」

「たまに言わないと忘れちゃうよね」

「もう忘れてるから! ノックアウトスイートアイキャンディよ! っていうか自分で自分のこと言いたくないし!」

「ごめんね。でも、鵤さんはちゃん付けされるの嫌がるよね。葛ちゃんは嫌がらないのに」

 藤は眉根を寄せた。

「葛をちゃん付けで呼べるのなんて、八街くんかあいつのおじいちゃんぐらいだと思う。私はやあよ。ちゃん付けなんて子供っぽいもの」

「じゃあなんて呼ばれたいの?」

「会長ね」

 幸は小首を傾げた。

「知らないの? そろそろ生徒会が交代する時期なのよ。選挙をやって、新しい生徒会長を決めるの」

「そうだったんだ。じゃ、会長……長田さんは引退するんだね」

「そ。会長ったらちょっとナイーブになってるみたい。でも関係ないわ。次に生徒会長になるのはこの私よ」

 藤の目がギラリとした光を放った。

「じゃ、鵤さんは立候補するんだね」

「ええ。私の見立てによると、生徒会長に名乗りを上げるのは私と葛の二人だけ。一騎打ちという形になるわ」

「でも、葛ちゃんは一年生だよね。立候補できるの?」

「そりゃできるわよ」

 何でもなさそうに言うと、藤は忌々しげに口を開く。

「学校を運営しているのはタダイチといかるが堂だもの」

「……そう言えばそうだったね」

 つまり、葛と藤は権勢を傘に着て好き放題やるつもりなのだ。幸は不安になった。今までは長田が彼女らを抑えていたに違いないが、彼が生徒会を辞めてしまったら、誰が二人を押しとどめられるのか。

「それで?」

「え」

 物思いに耽っていた幸は、藤に思い切り見られていることに気づいてたじろぐ。

「だから、八街くんはどっちに投票するの?」

 そういうことかと、幸はため息を漏らしそうになった。

「生徒会長には、学校をよりよくしてくれる人になって欲しいな」

「ふふふ、もちろんよ。葛の好きにはさせないわ……!」

「目が据わってるよ」

「ふふふふふ」

 藤は立ち止まった幸には気付かず、忍び笑いを浮かべながら歩き去っていった。



 藤の熱意とは裏腹に、蘇幌学園の生徒は生徒会選挙どころか、現生徒会のことにさえも興味がないらしかった。その証拠に二年一組は今日もいつも通りの朝を迎えていた。

「おーす、ヤチマタ」

「おはよう。あのさ、なんか生徒会が新しくなるんだって」

「へー。それよかさ、また転校生が来るかもしれねーってよ」

「えっ、そうなの?」

 幸の頭からも生徒会のことが抜け落ちた。彼は鞄を机の上に置き、話の輪に混ざった。

一組うちに来るのかな?」

「さあ、どうだろな? でもアレなんだよ。一組って生徒数少ないからさ、こっちに来るんじゃねえかなって」

「委員長なんか聞いてねえの?」

 幸は首肯する。彼も担任の鉄からは何の話も聞いていなかった。

「女子だったらいいなー」

「ああ、だよな!」

「まともな子だったらいいなー」

「お、おい……」

「あ?」

 田中大が振り向くと、笑顔で手を振る蝶子と目が合った。

「おはよう、何の話してんの?」

「えっ? あ、あー、いや、転校生が来るかもしれないって話を」

「へー、そうなんや。……うちと違ってまともな女子が来るとええな」

「ヒッ」と田中大が短い悲鳴を発した。

 蝶子は憤慨した様子で自分の席に座る。男子どもは声を潜めた。

「おい、誰か蝶子ちゃんをなだめてこいよ」

「蝶子ちゃん怒ったら室温上がっちゃうだろ。まだ残暑厳しいんだよ」

「誰が行くんだよ」

 全員が幸を見た。どうしてだよと彼は泣きそうな顔になる。しかし幸は幸で他の男子に任せても火に油を注ぐのが関の山ということを分かっていた。

「もう、こういう風にこそこそするの、蝶子ちゃんは一番嫌がるんだからね」

「へーい」と翔一がへらへら笑って答えた。

 幸は椅子をひっつかむと、蝶子の傍に座り込み、教科書に目を落としていた彼女に声をかけた。

「なんや、委員長」

「生徒会が新しくなるんだって」

「……? ああ、もうそういう時期なんか」

「そう」と幸が微笑むと、仏頂面だった蝶子もつられて笑みを浮かべた。その様子を見ていた男子は悔しがるのだった。無茶苦茶やなこいつら。

 教科書を机の中に戻した蝶子は、髪の毛を弄りながら幸に顔を向ける。

「そしたら、今の会長さんは生徒会を卒業してしまうんやなあ。……跡目継ぐんは誰やろな」

「葛ちゃんか鵤さんだと思うよ」

「なんやしょうもな。やっぱりあの二人かい」

 蝶子は指先で机を叩いた。

「委員長は立候補せえへんの?」

「ぼく? ぼくは、そういうの考えたこともないよ」

「ふーん」

 嫌な予感がして、幸は蝶子をじっと見据えた。

「変なことしないでよ」

「何もせえへんって。けどな委員長。男やったらてっぺん取ったろかってそうは思わへん?」

「思わへんもん」

「あっ、ちょっとイントネーション違う。もっぺんゆうてみ」

「思わへんもん?」

「ちゃう」

 がやがやと騒がしかった一組だが、廊下から規則正しい足音が聞こえてきて徐々に静かになっていく。生徒たちはみな、担任である鉄の足音を覚えているのだ。

 ややあって鉄が教室にやってきた。彼女は教壇から室内を見回し、小さく頷く。教室は緊張感と、もう一つ、膨れつつある期待感で満たされそうになっていた。

「おはようございます」

「はい、先生!」

 翔一が先陣を切った。彼は元気いっぱいに手を上げて、鉄の反応を待つ。しかし待ち切れずに、叫ぶようにして言った。

「テンコーセーが来るってマジっすか?」

「……ええ」

 おお、と、どよめきが起こった。

「女子ですか!?」

「はい」

「おおーっ、可愛いっすか! 可愛いっすか!」

「そういったことはそれぞれの主観によりますので」

「いつ来るんすか!?」

「本日からになります」

 一組のテンションは最高潮にまで達していた。しかし、幸だけは鉄の表情が浮かないことが気にかかっていた。

「皆さん、お静かに。……どうぞ、お入りになってください」

「……おい、マジか」

 誰もが騒いでいたので気づかなかったが、既に転校生は扉の傍にいた。彼女がその姿を見せた時、一組の生徒は口をつぐんだ。

 明るいブラウンの髪が揺れる。柔らかで、どこか頼りなげな髪質は日本人のものではない。肌は白いが少女にしてはしっかりとした体格であった。教室の前の方に座っていた男子が、遠慮がちに転校生を見上げる。鼻筋がすっと通った、凛々しい顔立ちがそこにあった。整った造作。ただ、その眼には男子の姿が映り込んでいなかった。転校生の少女は二歩前に進み、教壇の傍に立つ。少女の目は感情を押さえつけているかのように冷たかった。

「日本人じゃねーし……」

「お静かに。自己紹介は……」

 鉄は転校生の少女に話すよう促したが、彼女はじっと教室の壁を見つめていた。

「フランスから転校されたリリアンヌ・マリアンヌ・ド・ッゴーラさんです」

 自分の紹介をされてもなお、リリアンヌという異国の少女はぴくりとも反応しなかった。鉄は、彼女に一番後ろの席に座るようジェスチャーで伝えた。

「ハイ」と、リリアンヌは大人びた声で返事して机の間を横切っていく。

 幸は見た。何より目立っていたのは彼女の脚だ。しなやかで、それでいて程よく締まっており色つやがいい。

 リリアンヌという少女は自分の脚でしっかと歩いている。かっぽかっぽと前足と後ろ足を動かして闊歩している。

「いや、日本人じゃねーっつーか」

「……亜人じゃん」

 一組の生徒たちが驚くのも無理はなかった。

 上半身が人。下半身が馬。リリアンヌは、ケンタウロスと呼ばれる亜人種の少女だった。並の男子よりも背が高く、体格もいい。それでいて歩く姿は優雅だった。転校生だというのに、まるで自分の庭のように振る舞っている。

 リリアンヌが幸の傍を横切った時、彼は、ケンタウロスというのも蘇幌の制服を着るのだなと感心していた。無論、藤や蝶子が着ているものとはサイズがまるで違うが。後は特に気にならなかった。耳の位置が頭の上の方にあるのが『へえー』と思ったくらいだ。この街には亜人が多い。学園にもオークやワーウルフといった亜人はいるのだ。

 宛がわれた席に着こうとしたリリアンヌだが、少し手間取っていた。用意されていた机と椅子が、体の大きいケンタウロスとは合わないのだ。幸は咄嗟に手を上げた。

「先生、新しい椅子と机ってどこにありますか」

「空き教室に予備が」

「取りに行ってきます。えっと……」

 立ち上がった幸は無言のリリアンヌに微笑みかけた。

「ちょっと待っててね」

 リリアンヌはぷいと窓の外へ視線を遣った。



 リリアンヌの机と椅子は鉄製だった。彼女は少し足を折り曲げるようにして、大きな尻を椅子の上に乗せていた。

 昼休みになるまで、彼女はずっと好機の目に晒されていた。転校生の宿命である。さらに、外国から来たということと、亜人種であることも重なって男子どころかほぼ唯一の女子である蝶子でさえも話しかけられないでいた。

 ケンタウロスは世界でも稀に見られる、比較的珍しい亜人である。たとえば、ワーウルフは普通の人間とそこまで変わらないが、ケンタウロスは馬の姿が色濃く出ている。ケモノの血が濃く流れているのだ。人間とかけ離れた姿であるためその違和感も大きい。そのサイズ感も相まってリリアンヌの一挙手一投足が一組の生徒たちの目を強く惹いていた。

「自分ら、見過ぎやで」

 蝶子が立ち上がった。今でこそ彼女も一組になじんでいるが、女子の転校生であったのに変わりはない。蝶子は、副委員長という肩書きもあってか使命感に後押しされてリリアンヌに話しかけた。しかし彼女の反応は芳しくなかった。そもそも日本語が通じていないのかもしれなかった。蝶子は身振り手振りを加えて果敢に挑むが、リリアンヌは最後まで無言を貫いた。

「無愛想なやっちゃな」

「蝶子ちゃんも結構そんな感じだったじゃん」

「うちは猫被っとったやろ」

「自分で言うんだ……」

 放課後になり、今度は幸が学校の案内などを買って出たが、リリアンヌはこの日、誰とも言葉を交わすことなく教室を出て行ってしまった。

「お高くとまってやがるな」

 その様子を見ていた男子が鼻を鳴らした。幸はゆるゆると首を振る。

「仕方ないよ。転校してきたばかりなんだし」

「実際、お高いとこから来たんじゃねえの?」

 翔一が、廊下の窓からリリアンヌの姿を見つけて肩をすくめた。

「どっかのお嬢様って感じじゃん」

「フランスだったっけ? ……なんで売布なんだろうな?」

「花粉症だからだろ」

「いや、そうじゃなくって。フランスだろ? わざわざこっちに来なくても、隔離先なら他にあんじゃん」

「なんか理由があるんちゃう?」

「あー」

 蝶子がそう言うので翔一たちは納得しかかっていた。

「……ってことは、訳ありの子なんだろうな」

「仲良くできればいいね」

 にこにこと笑う幸を見て、翔一たちは苦笑するしかなかった。



 家に帰った幸は、自室の椅子に座ってテラリウムのメンテナンスを行いつつ、鬼無里に話しかけた。ケンタウロスの少女が転校してきたのだと知ると、鬼無里は鼻息を荒くした。

「解剖してみたい」

「言うと思いました。……ケンタウロスってそんな珍しいんですか?」

 鬼無里は苔むした石に座って、足をぶらぶらとさせる。

「そうだね、亜人の中では珍しい。数も少ないし、そういった種族は割と排他的な性質になるんだよ」

「そうなんですか?」

「例が少ないから確かかどうかは分からないけどね。それに、人間とは姿が違い過ぎる。蜘蛛や蛇は嫌われてしまいがちだが、その理由は足の数にあると思う。蜘蛛は多いし、蛇は少ないだろう? 人間はね、自分とは違うものを異物と見なすんだ」

「含蓄がありますね」

「そうかな」とカエルが笑う。

「そのケンタウロスの子、フランスから来たと言ってたね。花の都には行ったことないから私の主観でしかないが、あの国は差別大国と言われているんだよ。移民だから、アジア人だからってだけで同じ人間を異物扱いするんだから」

「亜人だったらその比じゃないってことですか」

「さてね。それで言ったらどの世界のどの国でも差別や区別は存在するし、なくならない」

「そういうのってどうにもならないんですかね」

「ならないね。それが嫌なら一人きりになるしかない」

 私みたいにね。付け足して、鬼無里は水の中に浸かった。

「ご主人さまは優しいというか、甘いからね。しかしその甘さを甘んじて受け入れている身としてはいかんともしがたい。どうせなら私にだけ甘いご主人さまであって欲しいものだ」

「じゃあ今度は何かいい餌にしましょうか」

「餌と言うのはやめてくれないか。食事とか、ご飯とか……言い方には気をつけて欲しいんだが」

「あっ、ごめんなさい、つい」

 カエルになったまま鬼無里は元の姿に戻らない。人間に戻るつもりも、今のところはなさそうだった。

「それよりご主人。いたいけな私から忠告をしておこう。夜遅くまでゲームをしていたら、いつか寝坊して遅刻してしまうよ」

「それも、つい……」

「ゲームで遊ぶのはいいが、遊ばれてはいけないよ。ああ、何か、いいことを言ったような気がするな」

 うんうんと頷く鬼無里。言っていることは正しいのだが、何だか釈然としない幸だった。

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