硝子壺の中の蟻
《長鳴》と狩人たちの戦いは続いていた。
味方の狩人すら全滅させかねない勢いだった愛子は、有志によって気絶させられて軽トラの荷台に乗せられていた。彼女が意識を失い、《大氷結》の効き目が薄くなったせいか、《長鳴》は先までボコボコにされていた憂さを晴らすかのように暴れ回る。狩人たちは、これではただ凶暴化させただけじゃないかと愛子を恨めしく思った。思っただけだ。直接言えば何をされるか分からないので胸に秘めておく。
「あのバカ女!」
「よせよ、ヒミちゃんのこと悪く言ってるのが氷見さんにバレたらさ、《猟会》全部敵に回しちまうぞ。あそこのジジイどもはヒミちゃんのファンだからな」
「じいさんと結婚すりゃいいのにな」
「あれで面食いなんだよ」
狩人たちはぼやきながら鉈を振るっていた。そんな折、一組の男女が森に姿を見せる。彼らは周囲を見回すや、ケモノの声に負けじと大きな声を放った。
「瓜生ってなあどいつだ!」
先に銃声が鳴って、もじゃもじゃ頭の男が叫んだ。それで、狩人たちはやってきた二人が《花屋》の人間だと気づいた。
「……こんな時に何の用だよ」
「目ぇついてんのかよ! 人探しならよそでやれや!」
「そういうわけにもいかねえんだよな」
パーカーの少女こと、花屋の鍵玉屏風が空砲を撃ちまくった。傍らの狼森は頭に手を遣った。
「瓜生だ! 瓜生晩ってのはどいつだってんだ! 出せ! 隠したやつはぶち殺すししょっ引くぞ!」
屏風は目が合ったものに銃口を向けた。狩人たちはケモノをいなしつつ、瓜生の名を呼んだ。そのうちの一人であるベルナップ古川が《花屋》の二人に近づいていく。
「瓜生たあ、《救偉人》の団長のことすかね」
「おう」と屏風が悲しそうな顔で答える。
古川は不思議そうにしながらも、自分の知っていることを話した。彼はメフで《花屋》に逆らうことの愚かさを知っていた。
「やっこさんならさっきまでここにいやしたぜ」
「どこ行ったか分かんねえか?」
「さて、お仲間も瓜生の旦那がどこ行っちまったのか分からねえみたいで。ただね、知り合いの狩人さんが裂け目の方に行ったのは見ましたぜ」
「裂け目?」
古川は魔区の裂け目がある方角を顎でしゃくってみせた。
「行ったのは八街って学生さんでね」
「やちまた? ああっ、あの兄ちゃんもここにいたのか! なあ、兄ちゃんはどこ行ったんだ!?」
「だから裂け目の方ですって」
「よっしゃ、行こうぜ相棒」
「おいおい」
走り出そうとする屏風を捕まえると、狼森は首を振った。
「目的はそっちじゃねえだろ。瓜生の方だ」
「その、瓜生の旦那が何かしたんですかい。いや、答えられねえんならそれでもいいんですが、あんたがたが出張るくらいの何かが起きてるのは確かでしょうし」
「コロシだよ。瓜生ってのが絡んでるのに間違いねえんだ。締め上げてクロ判定ならぶっ殺すし、とりあえずクロ判定にしてからぶっ殺してもいい」
「あっ、馬鹿」
「……へえ」
古川は目を細めた。
その時、ケモノを素通りし、駆け抜けていく三つの人影があった。古川は彼らのことを知っていた。先日、カエルのケモノを討伐する際に共闘した、幸の知り合いたちだ。彼はそこでおおよその事態を把握した。
古川は先行した三人を追った。彼につられて屏風と狼森も後を追う。
「おいっ、瓜生の居所を知ってんなお前!」
古川は答えなかった。こういう時に《猟犬》とあだ名されるほどの鼻が利く。何か起きている。そいつが金になるかどうかは分からないが、ここで動かねば自分にとって良くないことが起きると踏んだのだった。
疾走する古川に追いつこうとする狼森と屏風だが、後背から風を切る音がして思わず立ち止まった。振り向けば、狩人たちを蹴散らした《長鳴》の姿があった。二人は横っ飛びになりつつ銃をぶっ放した。気づけば古川の姿は遥か先にあって、二人はケモノに狙われていることを知る。
「くそっ」と狼森が毒づく。
「これじゃあ仕事が逆だぞ」
狩人ならケモノを追えってんだ。そう言いながらも、狼森たちはケモノとの交戦に入った。
地下の暗がりに薄ぼんやりとした火が灯った。ランタンを手にした瓜生が、それで幸の顔を照らした。彼は眩しそうに目を細める。互いの息遣いだけが聞こえるような静けさの中、先に口を開いたのは幸だった。
「見えなかったから、見なかったことにします」
幸は瓜生に切りつけられた。すんでのところで防いだが、そうしなければ頭をかち割られていたに違いなかった。
「へえ?」
「今のは、何かの間違いじゃないかって」
瓜生は底意地の悪い笑みを張りつけたまま、ランタンを地面に置いた。
「ぼくが何かしたんなら謝ります」
「いや、そういうのいいから」
「あと少しの間だけ、放っておいてくれればいいんです」
「だから、なんで?」
幸はオリガの方へ目を向けた。彼女は異能を使い、周囲に光の槍を突き刺す。それで一帯は真昼のように明るくなった。
「オリガさん。話します」
「好きにしろ。だがな」
「分かってます」
斜め後ろにオリガが、その後方に日限とアレクセイがいた。幸はそれを確認し、瓜生をよく見る。自分たちの事情をゆっくりと、かいつまんで話しつつも《花盗人》を発動させていた。
幸は強かだった。彼は知っている。瓜生は自分よりも頭がよく、腕がよく、狩人としての経験を積んでいる。そんな男が鉈を抜いて襲い掛かってきた。もはや話し合いで解決できる段階ではなかった。
「だから、ぼくたちは」
瓜生から目を離さず、まっすぐに、射抜くように。それは同業の先達を見るような目つきではなかった。彼は瓜生も同じように自分を見てくると思っていたが、少し違った。彼は幸の話を意外にも素直に聞いていた。途中で茶化したり、邪魔をすることもない。ただ、怒っていた。
「もういいよ」
「何がですか」
「もういいって言ったんだ」
瓜生が鉈の柄を握り直した。幸は《花盗人》を使おうとしたが、動きが止まった。その瞬間、瓜生の体が後方に跳ねた。受け身も取れないまま、彼は地面に仰向けになっていた。額にはオリガが打ち出したであろう光の槍が突き刺さっており、幸がそれを認めた途端、煙のように掻き消える。それきり瓜生はぴくりとも動かなくなった。
呆気ない幕切れだった。幸はオリガに向き直り、口を開閉する。彼女はつまらなそうに息を吐いた。
「何だ。その目は」
「何も聞かないで、そんな風にやることなかったじゃないですか」
「お前だってやるつもりだったろう。『分かってます』と言ったじゃないか」
幸は否定しようとしたが、瓜生はクロ判定されていなかった。ただの人間で、ケモノではない。そんな相手に異能を使い、鉈を振るおうとしたのは事実だった。
「お、おい、何が、いったいどうしてこんなことになってるんだ?」
日限は事情を呑み込めていないらしく、ひたすらに困惑していた。彼にかける言葉も見当たらず、幸は瓜生の骸を見下ろす。
「どうせならもっと下へ行くか」
瓜生の死体を一瞥したオリガは疲れ切っているようであった。彼女だけではなく、誰もがそうだった。だからか、真っ黒い塊が飛翔したことに、すぐには気づけなかった。
黒々とした何かは凄まじい速度で幸の横を過ぎ去った。彼は声を上げたが、それが誰かの注意を引くより早く、日限の素っ頓狂な声と、アレクセイの呻き声が聞こえた。
「はっ、離せ! 何をしているんだっ、お前は!」」
アレクセイが日限を押し倒していた。
下になった日限が喚くもアレクセイは動かない。否、動けなかった。何故なら、彼の脇腹は大きく抉られていて、そこからどくどくと血が噴き出しているからだ。内容物も地面にまろび出てアレクセイは息をしているのがやっとというありさまだった。
「おいっ、おい!」
幸は耳を塞ぎそうになった。ケモノじみた声がオリガから迸ったからだ。彼女は悲痛な声を上げると、アレクセイにのしかかるようにして彼を抱きかかえた。わんわんと泣き喚き、鼻水を垂らしていた。その下にいた日限はやっとのことで這い出て来れた。そこで彼もアレクセイが何をしたのかが分かったらしく、顔からは血の気が引いていた。
「はァ――――ハ…………! はっ、はぁ」
幸はすっかり固まりかけていたが、自分の息が荒いことに違和を覚えて、そこでようやく我に返った。アレクセイの体からは未だ血が流れている。周囲を見回すと、先まであったものがなく、なかったものが浮かびつつあった。ランタンと混沌、そして瓜生の骸である。影も形もない。彼はオリガの攻撃を受けて絶命したはずだ。だが、と、幸はちぎれかけた意識を繋ぎとめる。
「あぁあああ、怖いなあ。こえーこえー、すげえ危なかったよ。なあ。こういう時に思うんだよな。生きててよかったって」
地面が蠢いたように見えた。そこから頭を、体を、最後には全身をぬるりと登場させたのは、やはり死んでいたはずの瓜生であった。今、この瞬間、自分たちに攻撃できたのは彼しかいない。幸は瓜生を強く見据え返した。
瓜生は首の骨を鳴らす。
異能だ。幸は確信した。
死者が生者になったが、日限はそちらに気を配っていなかった。彼はただ、呆然とした様子でアレクセイを見下ろしていた。これほど憔悴し、混乱したことが今までにあっただろうか。自問自答しながら、後背から聞こえてくる剣戟の音、オリガの泣き喚く声を聞くしかない。
「……なんだ」
アレクセイがじっと見上げていた。その視線は何かを訴えている。日限は彼の顔の傍に屈み込んだ。
「お願いが、あります」
日限は頷いた。
「どうか……調査を。お願いします。そうすれば、自分のような人が、少なくなるかもしれない」
息も絶え絶えに、アレクセイはそう言った。この期に及んでそんなことを口にしたのだ。日限は握り拳を作り、それで自分の膝を叩いた。
「どうしてだ」
「あなたには、それができるはず」
「どうして、私を助けた」
日限は、喫茶店でのことや、魔区でのカエル退治の時を思い返していた。
「死にかけだったんだろう。どうして君はそんなことをしたんだ。今もそうだ。私を、わざわざ庇わなくてもよかった」
答えはなかった。アレクセイはいつかのように、穏やかな顔つきで微笑んでいた。そうして彼は目を瞑った。
勿体ないな。
瓜生は幸を見て、そう思った。彼には素質がある。躊躇いがない。それは命のやり取りをする点においては重要な事柄だ。狩人をやるにしては体が小さいがまだ若い。多少は背だって伸びるだろう。これから先の未来がある。こんなことにならなければ。今日、ここへ来なかったらの話だ。全ては仮定で、過去のことだ。
「八街君」
声をかけながら、瓜生はこの場をどう切り抜けるか考えていた。まずは自分が生き残るのが一番で、その次に大事なのはここから下へ行かせないことだ。つまり殺せばいい。全殺しである。その上で留意しなければならないのは順番だ。誰から殺すかだ。
日限とアレクセイは放っておいてもいい。片方はそのままでいい。勝手に死ぬ。オリガも今は無視して構わない。仲間をやられて逆上するかもしれないと考えていたが、実際はああやって泣き喚いているだけだ。
「俺はさあ、まだどうするか迷ってんだよ。いや、今こうしてるのも気の迷いってやつなのかもしれないな」
問題は幸だった。こいつは動いた。自分に反応し、やるべきことをやっている。今もこちらの隙を伺い、何か狙っているようなそぶりさえあった。しかし遥かに格下だ。頭が違う。腕が違う。積んできたもの潜ってきたものも違う。
すっぱり殺してしまおう。
瓜生は幸を仕留めるのと同時、今日の夕食についても思いを馳せていた。肉がいい。うんと美味いやつが。
「君はどう思う。八街君」
話しかけるのと同じタイミングで踏み込んだ。得物の鉈は既に唸りを上げている。幸の頭部を狙った一撃は、しかし固い感触に阻まれた。まただ。先と同じように鉈で防がれた。打ち合いを続けてもいいが、瓜生は一度距離を取った。
「瓜生さん」
「ん? 何?」
「放っておいてはくれないんですね」
「ああ」
「ぼくたちは……いや、アレクセイさんたちは、ただ、ここで静かにしていたいだけなんです」
ここで死にたいというオリガたちの望みは瓜生も知っている。
しかし、それが許し難かった。
「死にたいってことだよな。でもさ、俺がこうやってるのは生きたいからなんだ。分かるだろ。生きたいから殺すんだ。君たちは、何かこう、人として歪んでるよ。死ぬためにそうやってるのっておかしいんだよな」
「同じですよ」
「どこが同じなんだ?」
「行きつく先が皆にあるんだったら、死ぬのも生きるのも、同じようにゴールを目指してるだけじゃないですか。そこに着くまでまだ時間がかかるか、あと少しかって差しかないんです。だから、邪魔しないでください。あの人たちは今も生きようとしてるんですから」
「ふざけるなよ」
同じじゃない。
同じであってたまるものか。
お前らは諦めた。生きることを放棄しようとしているんじゃないか。
「死人が死に場所を探すなよ」
「死は結果じゃないですか。アレクセイさんもオリガさんも生きようとしてる。その先に死ぬことがあるだけでぼくらと何も違わない」
「もういい。俺は決めたよ」
幸の顔が歪んだ。瓜生は、彼が怒っているのかもしれないと思った。
「ぼくも決めました」
そう言って、幸は鉈の先で来た道を指した。
「行ってください。そうしてやるべきことをやってくれるんなら、ぼくも『もういい』です」
瓜生はやるべきこととやらを思案した。まず、晩飯だ。肉が食いたい。それから逃げた家族を見つけ出して灸を据えねばならなかった。
「そうだな。牛か豚か迷ってたけど、やっぱり牛だよな」
「自首してください」
「ええ? 自首って、俺が?」
「本気で言ってるんですか」
「冗談だよな、八街君」
幸は目を瞑って息を深く吸った。今のうちに襲い掛かってもよかったが、瓜生は彼が何を言い出すのか興味を持ちつつあった。
「あなたは、人に異能を使った。……人殺しのやることですよ。狩人なら分かってるじゃないですか。
「ああ、そういうことか。……違うね。俺は人じゃない。俺の異能は死人に使ったんだ」
「死人」
「そう。死にたがりは死人だろ」
どうせここにいるものは
「いいかい八街君、君はどうか知らないけどさ、そいつらは」
「もういいです」
「……人の話は聞きなよ」
「人じゃない」
幸は鉈を軽く振った。そうして、険しい顔つきを瓜生に向けた。
「あなたはもう人じゃない。真っ黒だ」
「そうかい」
問答は無用ということならそれでいい。瓜生はやるべきことを思い出した。
「そうだった。まずは君からだったよな」
真っ暗で、真っ黒だ。
《花盗人》を使ったが、瓜生の心は闇に覆われていて何一つとして見えなかった。ただ、彼が異能を有していることだけは分かった。
死人。瓜生はオリガたちをそのように言った。幸にはそう思えなかった。
「君は結局何がしたかったんだろうな」
瓜生の攻撃を捌きながら、幸もまた考える。
一つ分かっていたのは、幸自身、メフに来る前も、来てからも、しばらくの間は自分を死人のようだと捉えていたことだ。生きようと思えたのはむつみがいたからだ。彼女のようになりたいと願ったからだ。そうあるために、彼女と同じ狩人という道を歩もうとしている。
オリガもアレクセイも懸命に生きようとしていた。少なくとも幸の目にはそう映った。ここに至るまで、二人は色々なことを考えたに違いなかった。二人はその上でここに来たのだ。他者の介在する余地などあっていいはずがない。ただ、見たかった。見届けねばならないと思った。
「邪魔をしないで欲しかっただけなんだ。仕掛けたのはそっちじゃないか」
「……そういうことを、そういう目で言うのかよ」
瓜生は舌打ちした。幸は前へ踏み込んだ。
「ぼくは、何度も言ったじゃないですか!」
覚悟を決めれば早かった。目の前の男は人好きのしそうな笑みを浮かべた先輩狩人ではない。ケモノだ。少なくとも今だけはそう思え。でないと全員死ぬ。ここで全員殺される。幸は自らに言い聞かせた。
「俺だって何度も言ったけどな」
渾身の一振りは容易くいなされた。正攻法では歯が立たない。当たり前のことを思い出すのに時間がかかって幸は歯噛みした。相手は異能者だ。のみならず狩人としても腕が立つ。だったらそうだ。いつだってそうだ。敵を討ち滅ぼすのなら使えるもの全てを使うしかない。
幸は自分から斬りかかった。大振りだ。瓜生は当たり前のように反応したが、彼の手には得物がなかった。一瞬間だけ瓜生の動きが静止したが咄嗟に飛びのく。幸の鉈は空を切った。
「それが」
幸は心の中でそうだと返した。これが自分の異能なのだと。
瓜生は空手のままで飛び掛かる。幸は両手の鉈を遮二無二振ったがかすりもしなかった。腹を蹴られて蹲ったところを狙われる。彼は相手を見ないまま得物を振り、瓜生を遠ざけた。
奪え。
奪え。
異能を奪え。
しかし《花盗人》は瓜生の異能を掴めない。武器は奪えれど彼の経験までは奪えない。
「くっそ……!」
「ははっ」
幸の攻撃は軽く躱される。おまけに奪った鉈もあっという間に取り返された。威勢のいい声と共に、瓜生の鉈が宙を滑った。それを、頭を低くすることで回避するも、幸は次の行動に移れなかった。低い姿勢を狙われ、横っ腹を拳で殴られた。胃液が舞った。
「はっは、いいよ八街君。ちょっとムカついたけどさ、君はいい。いいよ。生きようとしてる」
幸は横目で瓜生をねめつけた。そうしながら、少しずつ息を整える。
「そういうやつはさ、家族になる資格がある」
瓜生は上機嫌だった。
「俺の家族になる資格だ。どうかな。なるってんなら、とりあえず君だけは助けるけど。家族だもんな。家族だったら助け合わねえといけねえもんな。さあ、どうする」
幸は近づいてきた瓜生を切ろうとしたが、鉈を持った右手を蹴り上げられた。得物はくるくると回って地面に突き刺さる。
「君だったらアレかな。俺が兄ちゃんになるんだろうな。父親ってほど、俺はそこまで歳食ってねえし。どうしたんだよ。言えよ。何かをよ。ほら」
「うっ……ああっ」
腹を蹴られ、頭を踏みつけられる。幸は苦痛に呻いた。しかし目には光輝が宿った。飛ばされた鉈を《花盗人》で回収し、瓜生の死角から腕を振った。
瓜生は慌ててその場から離れる。幸はその隙に立ち上がり、肩で息をした。応える義理などなかったが、一つだけ言っておきたいことがあった。
「ぼくの家族は叔母さんだけだ。あなたなんかどこにもいりません」
「『ぼくの』じゃねえ。『俺の』家族かどうかって話なんだけど……まあいいか」
瓜生は手の中で鉈の柄を弄び、くるくると幸に見せつけるように回すと、腰を低くして構えた。
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