オレ(達)の家

「多分ここー!」


 途中からおんぶされながら着いた場所は、確かにほんの少しだけ、見覚えがある気がした。


「分かった、ここね。…あの、降ろして」


「あ、そっか!氷くん軽いねー!」


 そう言うと、降ろすというよりも手を離され、氷は有寿の背中から落ちるようにして尻餅をつく。痛覚は無いけど気分的にすごく痛い。


「痛っ。…んで、どうやんの?」


 場所なんかにはこだわらないが、少し家には興味があった。有寿のあの家はすごく綺麗だったし、しばらくこの世界にいることになるなら、自分で家を作って一人暮らしも悪くない。まぁ、その際には勝手に有寿が住み着きそうだが。


「えっとね、さっきものを出したり、服を変えたみたいに頭の中で家を想像するだけ。氷くんなら出来るね!」


 なんだ、それだけか。

 今回は一応、氷1人だけだし、有寿の家みたいに大きすぎない小屋ぐらいの大きさでいい。

 …小屋といったら木で出来てて、ウッドな感じで…。あ、暖炉とか風情あっていいかも。


「あ、氷の家具じゃなくて、ちゃんとした家具が欲しかったら今は考えない方がいいよ」


 …え、遅い…。

 暖炉想像しちゃったよ…。…とりあえず暖炉は取り消しで。

 …うん、こんな感じ。我ながら案外いい出来な気がする。


「おお!」


 氷が丁度目を開けようとした時に有寿が感嘆の声を上げた。

 ということは、やっぱり悪くない出来なんだろう。やるなオレ。

 そう確信して氷はゆっくり目を開く。

 すると、そこには想像と全く同じの氷でできた像があった。

 一応、有寿のところでしっかり家として利用できることは分かっているが、こう観るとやっぱり氷でよく出来た雪像でしかない。


 氷は一段上がったところにある扉を開け、中を確認する。

 中も特に問題がある訳でなく、キャンセルした暖炉も無くなっていた。人が5人ぐらいで生活するとしたら窮屈な部屋だが、1人なら広くも狭くもない絶妙な広さ。まさに理想通りだ。


 そんな風に脳内で1人で喜んでいる氷の後ろから有寿が顔を覗かせる。


「おぉー、いいねぇ!雪山で遭難した時に見つける小屋みたい!」


 お、鋭いな。その通り、それをイメージしていたのだ。


「じゃあ、あとは家具だね。私は外で待っててお楽しみにしてるから!」


 そう言って何処かに行った有寿をよそに、さっきと同じように家具を想像する。

 まず、暖炉。暖炉を想像してから目を開けると、既に火のついた状態で想像通りの暖炉が置いてある。

 その次にベッド。できることならふわっふわのベッドがいい。


 そんな感じで順調に家具を想像していくと、1つ問題が起きた。

 それは、水道を想像した時。いくら想像しても現れないので、冷蔵庫なども想像してみるとやはり現れなかった。

 恐らく、電子機器やは出せないのだろう。

 まぁ、想像すればものが出てくるこの世界で水道や冷蔵庫なんかが必要あるわけがないので、構わないのだが。


 しばらくしてから、準備が終わったので有寿を呼びに行く。

 扉を開けると、家の前で有寿が変な像を作っていた。氷…?と…有寿?の、二頭身の像。


「…何それ」


「あ!終わった?見てこれ可愛いでしょ!私と氷くんだよ!」


「何でそんなのキモいの作ってんの…」


「えー?暇だったしー?私と氷くんの家っていう目印?てかキモいって何?」


 いや、オレの家だし。有寿はせいぜい家に居座ってる蜘蛛みたいなもんだから。


「…あそ、一通りできたよ」


 とりあえずそう呼びかけると、有寿は発狂にも近い高い声で「見る!」と叫んでから氷の扉に吸い込まれていった。


 その後、少ししたら疲れきった様子で有寿が出てくる。

 親指を立てて「良き」呟きながら。

中ではしゃぎすぎて物壊してないといいけど。

 それから、氷の家に住み着く気満々の有寿のためにすぐ隣にもう一つ同じような小屋を建ててやった。

 それでもその夜は氷のベッドに潜り込んできて、狭い思いをしながらこの世界での2日目を終えた。

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アリスは氷の中に まぎょ @futomayu3

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