アリスの家

「氷くーん!起きてー!遊ぼー!」


 氷は有寿のその声掛けで目が覚める。普段の氷なら、こんな耳元で大きな声で起こされたらしばらく不機嫌だが、睡魔は襲ってこないため、すっきりと起きることが出来た。


「今日は私のお家に案内したげる!」


「家?」


「うん!普段の私はそこで暮らしてるんだ」


 家があるなら何故オレ達はこんな硬い氷の上で野宿をしていたんだ?初めから招待してくれれば良かったのに…。


 そして氷が案内された場所は、家というよりもだった。

 すっごい金持ちが住んでそうな大きい屋敷。

 なにより疑問なのが、なぜ氷はこんな大きいに気づかなかったのか。野宿をした場所からそう遠く離れていないし、木や建物は無く見通しのいい世界なのに。


「入らないの?」


 有寿が、氷達の背丈よりも遥かに大きい扉を開きながら訊ねてくる。


 氷は有寿がつくったこんな世界を詳しく考えても無駄な気がしてきたので、急いで有寿とドアの隙間を抜けて中に入る。


 外からも立派なだが、中も相当立派だ。某ディズニー映画に出てくる氷の城のような感じ。


「えへへ、ここが私の家!案内したげるね!」


 そう言って氷は腕を引っ張られた。まず有寿が向かったのは玄関の向かいにある階段。

 階段の踊場のようなところに出ると左右に別れてまた階段がある。壁にはよくありそうな(氷の)鹿の頭が飾られている。


 氷達は右側の階段から2階に上がる。そのまま右に曲がり、すぐのところにあった扉の前で有寿は足を止めた。


「ここが私のお部屋ね!」


 有寿は氷の腕を引っ張ったまま、その部屋に入る。

 その場所は、全て氷でできてはいるが女の子らしい可愛い部屋だった。氷の天蓋付きベッドに、氷の大きいテディベア。壁まで氷で水玉になっている。


「いいお部屋でしょ」


 たしかに、広さも充分あるし、いい部屋だとは思う。…これが氷でなければ。

 有寿だって物は出せるはず。家具ぐらい自分で出せるはずなのに、何故か全てが氷で、まるで雪像だ。

 昨日だって一応寝袋を出して寝ていたし、氷の上で寝るぐらいなら布団を出すはず。


「…有寿は、ここで暮らしてるの?」


「んー、まぁ暮らしてかなー。」


 ということは今は暮らしてないんだな。…てか、別にどうでもいいけど。


「あそ」


「あそ、ってなんだよ〜。…そうだ!いいこと思いついた!」


 いいことか。ちょっと期待してみよう。


「何?」


「家建てよ!」


「え?」


 うーん、流石。気軽に、家建てよ!とか言えちゃうのすごいわ。


「簡単に作れるから!」


 そして有寿は走って部屋を出ていった。だから、氷も走って追いかける。


「…有寿、足…速っ」


 氷が階段を降り始める頃には、もう玄関の扉を開く音がする。色々な意味で有寿は人間の丈を超えていると思う。


 やっとの思いで氷が玄関の扉を開けると「早く早く」と飛び跳ねながら手招きをしてくる。こちとら、もう息が上がってるというのに。


「どの辺に建てる?」


「え、まじでやんの?…どこでもいいよ…」


「じゃあ、私たちが出会ったところにしよう」


「場所分かるの?」


 ここは、氷の岩や地面の氷のひび割れぐらいでしか場所の判断がつかないのでオレには初めの場所がどこかなんて全くわからなかった。

 有寿が大きい氷の上にいたけど、そんな氷だってゴロゴロある。


「大体この世界のことは分かるから、場所も大体おっけ!」


 何がおっけ!なのかは知らないが、とりあえずオレは有寿について行けばなんとかなるだろう。

 そして、オレはさっきのことで学習したので、自分から有寿の腕を掴む。


「…?」


「…有寿、足速いから置いてかれる」


「そっか〜。じゃ、普通に手つなご」


 そう言って有寿は俺の手を払い除け、手を繋いだ。繋ぎ直し方…。


「出発しま〜す!」


 そして、有寿新幹線は出発した。


 すごいランダムに曲がるので本当に覚えているのか分からないが、正直どこでもいいし、とりあえずオレは有寿に着いて行く──行きたいんだけど、速すぎてオレの足が着いていけない…。

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