俺のこと
氷がケーキを食べ始めて速3分、ケーキは跡形もなく無くなった。
氷は多分その3分の中で一切れ分くらいしか食べていない。
それでも有寿は、おかわりとでも言いたそうにこちらを見てくる。いくらこの世界に空腹も満腹も無いと言っても流石に食べすぎだ。ていうか、気分的にお腹いっぱいになったりすると思うんだけど。
「おかわ…」
「もう終わり」
言われる気はしていたが本当に言われたのでそう言い放つと、有寿はしゅんと肩を落としていたが、またすぐに元気になる。
「それじゃあ、今度は私が質問していい?」
元気にはなったが、まだフォークを持ってソワソワしている。
仕方ないからチョコレートぐらいは出してやろう。
「別にいいよ」
氷はチロルチョコを手渡して言う。
ちなみに、普通にミルクのチロルチョコだ。
有寿はチョコを受け取り、乱暴に包装を破って口に入れてから言った。
「君のことも教えて?」
言われてみれば氷は聞いてばっかりで自分の事は話していなかった。
でもそんな事言われても何から言えばいいのか…。
「えっと…
「はいはーい!彼女はいますかー!」
何を聞かれるかと思ったら、案の定くだらない質問だ。
「…いないよ。まだそんなの必要無いっていうか…」
「ケッ…つまらない人生だぜ。…あ、そうだ。じゃあ、私が彼女になってあげよっか?」
「は?」
「うっそーん、冗談でーす」
本当に何なんだこの子。ノリがおっさんくさい。
「…あ!そうだそうだ!いいこと思いついたよ!」
有寿の思いつきはろくなことがないので、期待はしないで聞く。
「何?」
「こっち来て!」
有寿は氷の手を引いて走り出す。
しかし…こんな何も無い世界に目当ての場所なんてあるのか?
「ここ!登って!」
連れてこられた場所の目の前にあったのは、高さ5メートル程の氷の岩だった。
先に有寿が登って行ったので 氷は後に続いて登る。途中、有寿のパンツが見えそうになるが有寿も氷も気にしない。
少し疲れながら辿り着いた氷の岩の頂上からは、美しい景色が一望できた。
下から見ていても何も無い世界だけどまぁ綺麗な世界だとは思っていたが、上から見るのは格別だった。
しかし、確かに綺麗ではあるのだが、有寿が氷に見せたいものは、これではないような気もしていた。
「…あそこ。あの岩見てて」
有寿が指したのは水平線近くにある少し大きめの氷の岩だ…と思う。正確な場所は分からなかったが、多分その辺。
あと、どうでもいいし興味もないけど水平線があって、しかも、この時には空はもう綺麗なオレンジ色に染まっている。氷が来た時は真っ青な快晴だったのに、だ。
どんな仕組みなのは知らないけどきっとこの世界は丸いんだろう。
それからしばらく、氷達は一言も話さないでその岩の辺りをぼーっと眺めていた。さっきまであんなにうるさかった有寿が喋らないから、喋ってはいけない雰囲気で。
暇なので少しよそ見をしてくだらないことを考えていると有寿が呼びかけてくる。
「ほらほら、見て!」
岩の方に目線を向けると、氷はそこに映っていた光景に目を奪われた。
それは、日の入りの瞬間だった。
高いビルや家の屋根、そんなものは一切無く、水と氷だけの見渡しのいいこの景色から見る日の入りの光景はとても美しかった。
その後、だんだんと太陽は沈んでいき、辺りは闇に包まれる。
それからから、有寿がいきなり立ち上がって言った。
「星!」
いきなり立ち上がるもんだから氷はビクッと身体を反応させてから空を見上げる。
そこには、空いっぱいに星が。ここには、都会では決して見れない景色ばっかりだ。俺が死にかけたあの雪山でなら星は見えたかもしれないが、ここまで綺麗なものは見れていなかったと思う。
それから氷達は、一通り空を見て満足した後、野宿をしながら1日を終えた。
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