アリスのこと

「いやぁ、すごいね!何がって、服は変えられて食べ物まで出せちゃうなんてさ!」


 女の子は自分でスプーンを出して、さっき氷が出したかき氷を頬張りながら言った。

 ていうか、そんな事言われても氷はただ頭にものを浮かべただけだ。難しいことなんて何も無い。


「普通じゃないの?」


「それがね〜普通じゃないみたいなんだよねぇ。今まで来た子達はみんな出来なかったからね」


 さっきからこの子は何なんだ?今まで来た子達って…前からこんな所にいるのか?まぁ、これだけ色々知っているならそれしか考えられないのだが。


「…ねぇ、質問の続きしていい?」


「うん、いいよ!」


 思いの外この子は早食いなようで、食べているかき氷はもう終盤に差し掛かっていた。あんまり美味しそうに食べるから氷まで食べたくなってくる。


「…君のこと教えて」


 一瞬驚いた顔をしていたがすぐに笑顔に戻り、一気にかき氷をかき込んでから、こう言った。


「次はメロン味をおかわり!」


 …は?人の話を…。ていうか自分で出せばいいのに。

 色々思うところはあるが、氷は断れずに目をつぶってメロンのかき氷を頭に浮かべた。

 それから、足元に置いてあったメロンを手渡しする。


「やったぁ!ありがと!」


 そう言い女の子はまた頬張り出す。

 ついでにオレも食べたくなっていたので、ブルーハワイのかき氷を出して食べる。


「名前は夏樹 有寿。有るに寿命のじゅを書いて、ありす!」


 は?

 …いや、唐突すぎて何のことか一瞬分からなかったが、名前のことだな。


「11歳で、誕生日は12月25日。言わずもがな女子。好きなことは食べること、嫌いなことは勉強。あと、この世界を作った本人。…ぐらい?」


 いきなりそんなにたくさん言われても…。氷が質問した時の女の子…いや、有寿の気持ちがわかった気がする。

 ていうか、12月25日って…昨日だぞ?


「他に何か聞きたいことある?」


「いや、もう特に、は……え?この世界を作った本人…?」


 流れが自然すぎて全然気にならなかったが、この子は今、凄いことを言ったのではないか?

 だって、この世界を作ったって…この、天国みたいな不思議な世界を…。

 あ、だからか。だからこの子はこの世界のことを知っていたんだ。だから今までここに来た子のことを分かるんだ。前からいるとかそんなものではなく、作ったから。

 しかし、世界を作るなどと…そんなことができるとは到底思えない。


「うん。こんなこと言うのは君が初めてなんだけどね。君なら良いかなって思ってさ〜」


「…でも、なんでそんなことを?」


「そうだね…君になら言っても良いけど、やっぱりそれは君がこの世界から居なくなる前にでも教えるよ」


 有寿は、かき氷の最後の一口をかき込んでから、「ブルーハワイお願いしま〜す」と頼んできた。

 それを聞いて氷は、ブルーハワイを頭に浮かべようとしたところで、やめた。代わりに他のものを頭に浮かべる。


「え…?」


 出したのはホールのチョコレートケーキ。しっかりプレートに名前も書いてあげた。昨日が誕生日とのことなので、サンタさんからのちょっとしたプレゼントだ。


「…今日ってもしかして私の誕生日なの?」


「いや、昨日。12月25日」


「へえ…そうなんだ!ありがとう!

 …でも、ショートケーキの方が良かったな〜」


 こんなに何も無いところで暮らしていたら曜日感覚がずれるのは分かる気がするが、まさかチョコレートケーキを否定されるとは。まぁ、氷の誕生日はいつもチョコレートケーキだったため、常識だと思い込んでいた節もある。

 そこで、有寿は言い加える。


「うそうそ。すっごい嬉しい、ありがとう」


 そう言って有寿は、フォークを出して豪快に食べ始めた。氷のときはいつも、切り分けて家族で食べるため、少し驚いた。


「あ、反対側から食べていいよ?流石の私でもホールケーキを1人では食べられないし」


 チョコレートケーキは大好きだし食べたいが、氷にはまだかき氷が残っていた。

 これは、氷が遅いのではない、有寿が早すぎるのだ。

 実際、有寿はもうケーキを5等分したときの一切れぐらいは食べ終わっている。食べられないなどとほざいていたが、このままでは絶対に1人で食べ尽くす。

 また自分で出すのもいいが、これほどの出来のものが出せるかは分からない。

 氷はかき氷は置いといて、反対側からケーキを食べ始めることにした。

かき氷はだんだん溶けていって水色の液体になっていく。

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